結婚式と元彼/ci
きらきらな笑顔の新郎新婦を拍手で見送る。きれいだね、憧れるね、なんて未婚同盟の友達と笑い合う。
「ね、二次会どーする?」
『あー...ごめん、仕事ある。また別日飲も?』
なんて、対して大変でもない仕事を盾にして幸せの溜まり場から逃げる。
駆け込んだトイレの鏡に映った自分はきらきらのメイクをしているのに、全然きれいじゃなかった。そりゃ、大親友の結婚式で憂鬱になっちゃうような人間はメイクじゃ綺麗になんないよな。
「はぁ...」
彼氏とか最後に居たのいつだ?あー、チーノか。なんで別れたっけな。
...忘れた。
さっとリップだけを塗り直し、会場を後にする。
結婚まで漕ぎ着けるカップルすごいよ、まじで。
「『あ』」
噂をすれば、一服中の彼と目が合ってしまう。
高校の部活一緒だったんだし、まぁ来るか。一応共通の"知り合い"だし。
『来てたんだ〜...』
「なんで嫌そうやねん、喜んで?」
なんでトイレと喫煙所って近いんだろ。水場だから?火事前提かよ。
『まだ煙草吸ってんだ?早死にするね』
「別に長生きしてもなぁ。吸う?」
そう言って細長い指に新品のキャスターをはさみ、私の方へ差し出す。
『...さっきリップ塗ったからいいや。』
じゃあね、と言いかけた私を遮るように彼はまだ長い煙草をぎゅっと押し消した。
『え、なんか喋る流れ?二次会行かないの?』
「ん、あー。うん、行かんとく。仕事あるし」
同じこと言ってる...。こういうとこがノリ合って楽しかったんだよね。
「駅まで送るわ。もう暗いし。」
あれ、ほんとになんで別れたんだっけ?
***
生ぬるい風にせっかくセットした髪を吹かれながら歩く。
『電車の方面逆だっけ。私5番線』
「ん?あぁ、俺も。引っ越してん。」
『え、そうなんだ。近くにファミマ無かったもんね』
「ファミマのために引っ越すやつおる?」
なはは、なんて笑い方もなんか懐かしい。
『...歳取ったよね。お互い。』
「...。」
少し苦そうな顔をして目を逸らされる。
え、なんかめんどくさいこと言っちゃったかな。やだやだ。そういう女じゃないんで、自分。
「あのさ、」
たっぷり間を置いて彼はこっちを向いた。
...やっぱり欲深い女な感じ出てた?もう彼女居るから、とか言われたら普通に寝込むかも。いや、告白もしてないのに振るなって、なんて笑えばいいか。ちゃんと笑えるかな。結婚式のきらきらにあてられてそんな元気無いかも。
「なんか別れた感じ出てるけど、俺ら自然消滅やったやん。」
駅のホームは蛍光灯が明るくて、背の高い彼の顔を見つめたら目がちかちかした。
「もっかい、やり直したい。...僕と付き合ってください。」
ちょうど、5番線に来た電車が私たちの空気をゆらした。
『...。』
「...あー、ごめん、俺違う車両乗ろか。」
踵を返す彼の手を引き、がらがらに空いた車内に乗り込む。
『待って、』
駅員さん、駆け込み乗車しちゃってごめんなさい。
『私も、もう1回、一緒に居たい。』
てか、別れてなかったんじゃん。そりゃ理由も覚えてないわ。