なんとなく隣に座って、なんとなくテレビをつけて、つまんねぇ番組、なんて悪態をつきながらお互いスマホをいじって。そんな、なんとなくの金曜日。
『なんか面白い話ないの?』
「んー...なんもない...」
私が話しかけたせいで集中力が切れたのか、GAME OVERの文字が表示されたスマホを放り出して、大きな溜息をつきながら凭れかかってきた。
女友達用の裏垢から普段使いの何の変哲もないアカウントに切り替える。いい雰囲気のバルやカフェのストーリーがおんなじように並んで、まるで自分の豊かさをここぞとばかりにアピールしようとしてるみたいで滑稽だ。私も写真あげるけど。
「あ、さっきの美味そう」『どれ...これ?』
そう言って何度かスワイプすると出てきたのはカレーのお店。スパイスにこだわったエスニック系のカレーらしい。
「行こ」『いいねー。』『待って、平日お昼しかやってない』「は?警報出て会社休みならんかな」『いつの時代の話やねん』「中学」
子供っぽい発言にひと笑いして、ふと外を見ると雨が降り出していた。
私たちが出会ったのも雨の日だった。中学が暴風警報で休みになった日。警報で休みの日は外出たら指導(今考えたらまぁ正しい気もする)とかいう謎校則があって、それにも関わらずゲーセンで出会った私たちは秘密をシェアして浮かれた気分になっていたのだった。そのままなんとなく高揚した気分で付き合って、なんとなく楽しいねーで今に至る。
雨音は窓を叩きつけてより激しいBGMになる。
「なぁ」『なに?』
そんな雨音を無視するかのように、穏やかな彼の声が囁く。
「さっきのインスタの垢、みせて。」
『...裏垢?仕事の愚痴ばっかだし、女友達のノリは見せれんわ』
変わり映えしないストーリーを飛ばしながら、なんでもないふうに答える。あ、この子結婚したんだ。
「...ふ〜ん」『いやだって、これ見て?このストーリーあげてる子が裏垢ではこんなノリしてんのに彼氏には見せれんて』
さっとスマホを彼のほうに傾けると、緑の星がついた投稿には幸せそうな結婚報告とは一転、下ネタ悪口なんでもござれの文字が黒い背景にびっしりと整列している。
『昔から見栄っ張りな子だったし、さっきの投稿も偽造かもね』
「じゃあ、これは?」
するり、と彼の手が私の首元に触れる。襟から覗く鎖骨には、赤い痣がひとつ。
『...さぁ、虫刺されかな?』「悪い虫もおったもんや」
彼以外の男がつけたキスマークに舌が這う。
『...っは、怒ってる?』「いーや、全然。」
また強まった雨音に、ソファのきしむ音が加わった。
「明日も雨らしいで。」『じゃあずっと家居よっか。』
小さいころ、よく公園で遊んだ。
花壇に植えられてた花が好きだったな。ずっと鈴蘭だと思ってたけど、スノーフレークっていう全然違う花だってことを公園の管理人さんに教えてもらった。
白い花びらに緑の斑点がついていて、白いだけよりずっと可愛いじゃん、なんてなぜか私が得意な気分になったりして。
彼のうなじにつけられたキスマークを見て、なぜかそんなことを思い出した。