かようび
 しかし、まだ今日は火曜日。平日はあと四日もある。僕だって、このままではいけないとは分かっている。暫しの間だが、僕と彼女は同居人なのだから。人ではないけれど。そう思って買って来たのが「猫の飼い方」。僕に足りないのは恐らくマニュアルだ。猫にとって何が正しく、何が間違っているのかが分かれば、もう彼女の機嫌を損ねることはないだろう。どうしてそこまでしなければいけないのか少し不満なところはあるが、仕方がない。しかし、レディは想像以上に残忍だった。意気揚々と買ってきて早速開いた本は、彼女に奪われ無残な姿となった。
 ……気を取り直す。爪研ぎ代わりになったと考えれば良いだろう。誤飲しないようにちゃんと片付ける。それからインターネットで検索してみる。検索ワードは、「猫 付き合い方」――なかなか苦労している人は、僕以外にもいるようだ。まず、目を合わせないこと。距離を置くこと。それなら大得意だ。僕はソファに座りスマートフォンを眺め、レディはソファの裏側で日向ぼっこをしている。幸い目すら合わせようがない。そして、猫から構って欲しいと擦り寄ってくるのを待つのだそうだ。待つのも、得意だ。読もうと思っていた小説をお供に、待ってみる。短編集の一番最後は、ちょうど猫が登場するものだった。猫がまるで人間のように動き回る様子を語っていく話を読み終え、なんとも言えない気持ちになって、振り返る。レディはまだこちらに来ない。……まだまだ。もう一冊、もう一冊と読み続け、気がつけば日も傾き。
「ただいまー、……祐月?」
「全然来ないじゃないですか! 待ってたのに!」
「え!? いつも通り帰ってきたけど……!?」
「にゃあ〜!」
「レディ〜! ん〜ただいま、祐月いっぱい遊んでくれたか?」
 ……。

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