もくようび
 木曜日。彼女と僕の我慢比べについに変化が生まれた。彼女が、レディが、僕の足元に寄ってきたのである。一歩離れたところにちょこんと置物のように座っているレディ。ついに、ついにこの時が来た。音を立てずゆっくりと本を閉じ、音を立てずに床に座り込む。上から撫でてはいけない。何度もシミュレーションしたのだ。
「レディ……構って、ほしいんですか、レディ」
「にゃん」
「レディ……噛まないでくださいね」
「にゃん」
「……、引っ掻かないでくださいね」
「にゃん」
「いいですか、レディ……」
 そっ……と、手を伸ばす。最初は、手の甲の匂いを嗅いでもらって、安心してもらうのだ。レディはそっと鼻先を近寄せると、チロチロと触れてみせた。ここまでは、成功だ。あとはもう少し近寄って、からだに触ることが出来れば、
「……にゃあん」
 ……出来れば、よかった。レディはするりと僕の手を通り抜けると、しなやかな身体をくねらせてすたすたと歩いていってしまう。残された僕の手。そして反対の手に忍ばせておいた猫じゃらし。
「ただいまー、……ゆ」
「もう一回……もう一回……」
「……まだレディと、駄目なの?」
「まだって言わないでください……」

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