この恋は死んでしまった

鶴丸国永は、私が身構えることなく話せる唯一の太刀であった。家庭でも学生生活でも周りはほとんど同年代の女性ばかりだったせいか、男性恐怖症と言わないまでも打刀以上の刀剣男士に対しては距離が掴めず、上手く言葉が出てこない。会えばいつも口を噤んでしまう私が主であったのだから、コミニュケーションが取りづらいと感じる刀剣も少なく無かったと思う。だから基本的に近侍は短刀か脇差、例外的に蛍丸にお願いするようにしていた。太刀とは滅多に言葉を交わさない。有難うとか、ご苦労様とかその程度。そんな中でも常に話しかけ、私の言葉を急かさず辛抱強く待ってくれていたのが鶴丸であった。時には私と太刀との間を取り持ちすれ違いを解消してくれたり、私が落ち込んでいる時は率先して話を聞いてくれる。その優しさと気遣いの上手さから相談ごとは一番に鶴丸に意見を求めたし、気づけば常に近侍をお願いするようになっていた。明るく快活で、いつも輪の中心にいる鶴丸。他のどの刀剣よりも傍にいて、優しく、温かく私を支えてくれる。鶴丸に対して臣下以上の気持ちを抱いてしまうのに時間はかからなかった。

「お?こりゃ驚いた。君、そんな色の着物なんて持っていたのかい?」

「たまにはこういう色のものを着た方がいいと、乱が…でもやっぱり変ですよね」

「いいや?どこの別嬪さんかと思って驚いただけさ」

万屋へついてきてほしい、そういった私に鶴丸は是と答えた。そうして指定した時間に現れた私に対し一瞬目を見開いた彼は、ふわりと優しく笑う。それだけで顔が赤くなる、と言いたいところだが、生憎私にはそんな可愛らしい反応はついていない。にやけないように唇と噛んで下を向くのが精いっぱいだ。急に俯いた私に、鶴丸は首を傾げたけれど、帯の位置を確認しただけだと言えば成程そうか、と言うだけであったが、例えお世辞でも褒められたことは嬉しかった。乱に感謝しなくては。私の恋心を知った乱の反応は早く、事あるごとにこうしておしゃれというか女磨きの必要性を訴えてくる。お化粧も、ファッションもそこまで勉強してこなかった私は、彼の言うまま見繕うまま、与えられた着物に袖を通しているのだが、少しは報われたと思っていいだろうか。

「今日は何を買うんだい?」

「皆さんの日用品と、燭台切りに頼まれている調味料。…それから、紅を」

「紅?君がそんなものを買うなんて珍しいな。今までの君なら不要だと言っていただろうに」

「…私用で。ほら、審神者会議があるでしょう?そういった場には薄化粧くらいしていくのがマナーなんです」

「…そうか。君もそんな歳になったのか」

「しみじみ言うの止めてください。何だか私が歳を取ったみたい」

「ははっ!すまんな、あんまりにも珍しくてつい」