最近、夫がおかしい。
任務帰りに実家に寄ったかと思えば、お土産などと言って食べ物や小物を買ってくるようになった。何かのお詫びとも考えたが、気になる気配は飛んできていなかったので、おそらく気まぐれだろう。最初はすぐに飽きるかと思っていたけれど、未だに続いていることに薄ら寒さを覚えた。いくら後ろめたいことがあるからと言って、流石にこれはおかしい。
迷ったけれど、一番信頼出来る人に相談してみることにした。
「相変わらず五条に振り回されてるんだな」
「全然落ち着いてくれへん。ほんまに自分の年齢考えて欲しいわ」
頼まれていたお酒を届けると、硝子さんは嬉しそうに受け取ってくれた。呪術界では数少ない同性のお友達なので、これからも仲良くしていきたい。
高専内に作られた、硝子さんのためのプライベートスペース。校医として常に高専内で探す必要があるためか、住みやすいように改装されていた。広めのワンルームには、大きな冷蔵庫に二口コンロのキッチンまである。
「お台所借りてええ?何かつまみ作るよ」
「私のところに来た時くらい、ゆっくりしな。好物のプリン買っておいたよ」
「ええの?プリン、嬉しいわぁ」
差し出されたスプーンとプリンを受け取る。蓋に印字されてる可愛らしい子熊のロゴで、最近東京で話題のスイーツ店のプリンであることが分かる。忙しかったろうに、態々買いに行ってくれたのかと、嬉しくなった。冷蔵庫からはお惣菜や彼女の好物など、お腹を満たせるものに加えてお酒もどんどん出てくる。今日ぐらいはお互いに羽目を外そうと、そういうことなんだろう。
久しぶりに同性と過ごせるということもあって、話に花も咲きお酒も進む。程よく酔い始めた頃、話題はとうとう夫婦関係へと移った。
「浮気されても怒らないとか、織は本当に出来た嫁だよ。私が貰ってやりたいくらいだね」
「急に褒めんといてや。なんや、恥ずかしいわ」
「だが休みなく浮気されて悲しくないわけじゃないだろ?」
「だって悟さんやんな?しない方がおかしいやろ」
「それでも限度はある。私だったら埋めてるよ」
「うーん…そら私かて好いた人に浮気されるんは悲しいし怒るよ」
「待って、織。その考え方でいくと僕も怒られるはずなんだけど」
「……何で悟さんが居るの?」
「教師なんだから高専にいるのは当然でしょ」
堂々と部屋に入ってきた悟さんは、よいしょ、と我が物顔で隣を陣取った。女性2人なら余裕で触れるソファーも、体格のいい彼が座ると少し窮屈さを感じる。硝子さんは額を押さえてため息を吐いた。
「お前、実家に帰ったんじゃなかったのか?」
「嫁がこっち来てるって聞いて蜻蛉返りしたんだよ。可愛い奥さんに変な虫がつかないか心配だし。何?僕に内緒で女子会?」
「何でもいいだろ。邪魔すんな」
「いいじゃん、僕も混ぜてよ。織だってお酒強くないのに酔ったらどうやって帰るのさ」
「ここに泊まればいいだろ」
「硝子だとしてもそれは看過できないなあ」
ぐっと肩に回された手で引き寄せられる。今年に入ってからこういったスキンシップも増えていて、本当に不思議で仕方ない。怪訝な表情を浮かべれば、何、どうしたの?と笑顔を返された。
「折角硝子さんと2人で飲めるはずやったのに」
「追い出すか?」
「そんなことよりさっきの続きは?何で僕には怒ってくれないの?」
「何でって…私、悟さんのことは別に好いとりませんし」
「え?」
「好かれてると思てたん?不思議なお人やね」
吃驚された事に吃驚した。悟さんは自分のことを指差して、口を三角に開けたまま固まっている。初夜に自ら放った、愛さないで欲しいという言葉を忘れたんだろうか。
硝子さんがお腹を抱えて笑い出す。彼女にはこの結婚がビジネス言であることを話しているし、愚痴も聞いてもらっているので今更取り繕う必要もない。
「完全に五条の勘違いじゃん、超ウケるんだけど」
「え、何で?!僕、嫌われるような事した覚えないんだけど」
「嫌ってへんよ。好いてへんだけや」
「え、完全に予想外なんだけど」
「あれだけ好き勝手やっておいて、予想外もクソもないだろ。流石クズ」
「織に好かれるにはどうすればいい?浮気やめたら好きになってくれる?」
「出来ひんこと言うんはやめてや。それに悟さんから天上天下唯我独尊取ったら、何が残るん?それこそ嫌になるわ」
「ええ…」