彼女はいつもそこにいた。真一郎と外出後に施設に戻った時も、学校から帰った時も。勿論、少年院から出た時も。変わらず目を細めながら、おかえりと笑って出迎えてくれる。何気ない日常の一部だったけれど、確かにそこに存在した。

最初は飽きるだろうと思った。真一郎の付き合いできているだけだと。母親も自分を捨てたのだ。同じ女であるというだけで、信用など出来なかった。だからこそ近づけば威嚇し、突き放す。姉だと思ったことはない、そう言えば必要以上に踏み込んでくることはなかった。

どうかそのまま離れてしまえ。そんなイザナの考えはいい意味で裏切られることになる。必要以上に近寄らない代わりに、ナマエは足繁く施設に通った。それこそ、進級をかけた居残りという名の再試を何度も受ける真一郎よりも、遥かに訪れた回数は多い。1人の時もあれば、兄妹を連れてくることもあった。変な女だと思った。同時に面倒な女とも。
それでもナマエはイザナを見つけるといつだって、とろけるような顔で性懲りも無く笑うのだ。それがむず痒くもあり、腹立たしい。家族に憧れていたのは、小5までだ。今となっては、真一郎だけいればいい。そう思っていたのに。

気づけば、どこか期待する自分がいた。帰り際、必ず玄関先に視線を走らせ、見知った姿を探すようになっていた。見つければいつも通りの顔で笑いかけられてもやもやしたし、いなければ落胆する。追われていたはずの自分が、いつの間にか彼女の姿を目で追っている。それを知った時は愕然としたし、その辺を歩いていた年上のチンピラを問答無用で殴った。それで気分が晴れるようなものでもなかったが。

そもそも彼女は姉だ。こんな感情を抱くのは間違っている。だからこそ気付かないふりをするつもりだったのだ。真一郎から、あの話を聞くまでは。

「ナマエは妹つってるけど、実際俺たちとは血ィ繋がってねーの。そのせいか我慢させちまうんだよな」
「は?あれだけ姉貴面して兄妹じゃねぇの?」
「正確には従姉妹。でも十数年一緒にいるし兄妹みたいなモンだろ」
「血ぃ繋がってねぇなら他人じゃん」
「家族には変わりないっての。そんなに必要か?血の繋がり」
「1番大事なことだろ」
「考え方はそれぞれだからイザナの意見は否定しねぇよ。ただ、誰が何と言おうと俺とナマエは家族だし、それはこれからも変わんネェ。あいつもそう思ってくれてる。俺らレベルになると血の繋がりの重要性なんてミミズに毛が生えたくらいのモンだよ」
「…」