「エマ、マイキー!ねぇねと出かけるから準備してー」

集会とやらがある真一郎を朝から見送った後、ぽてぽてと目を擦りながら起きてきた弟と妹。日曜日だし、眠そうならもう少し寝かせてもいいかなと思ったけれど、出かけるという言葉に2人とも眠そうに閉じていた大きな目をぱっちりと開いた。どうやら杞憂であったらしい。

「お出かけ?!どこ行くの?エマも?」
「エマも行くよ〜行き先はまだ秘密。マイキー、ちょっと待って、とりあえずご飯食べてから靴履こうね」
「えーヤダ。早く行こうよ」
「ご飯食べない人は連れていきませ〜ん。ついでにおじいちゃんも起こしてきて」
「今日の朝メシなに?」
「おじいちゃんのリクエスト、焼きたらことお味噌汁の温玉御前でーす。お子ちゃま2人にはヤクルトが付きます。早くお出かけしたいなら、みんなでパパッと動きましょう」
「ん、じいちゃん起こしてくる」
「エマも!かおあらってくる!」

其々に任務を与える。久しぶりのお出かけともあって、よほど楽しみなんだろう。バタバタと動き出す2人はいつも以上に忙しない。おじいちゃんに2人の着替えを見てもらいながら、家族全員分の洗濯物を干す。それが終わればご飯である。3人が食べている横で、軽くつまめるお弁当も作った。その様子をソワソワしながら見ている弟と妹。口の端からご飯が溢れている。

「2人とも落ち着いて食べなさい。弁当もナマエも逃げんよ」
「おじいちゃんの分は冷蔵庫入れとくから、お昼はチンして食べてね」
「ねぇね!どこ行くの?」
「良いところ。バス乗って行くから、2人とも行儀良くしててね」
「たい焼きは?」
「えぇ…?途中にたい焼き屋さんがあったら買ってあげるよ」

ニコニコのエマとお弁当にたい焼きを入れたがるマイキー。それを微笑ましく見ているおじいちゃん。それなりに忙しい時間だったけど、なんとか予定していた時間に出れた。途中見かけた鯛焼き屋さんに向かってマイキーが走り出したこと以外、2人とも言いつけ通りに大人しくバスに揺られてくれるので助かる。そうしてバスの中で過ごすこと数十分。ある施設の前で降りた。

「ここどこ?図書館?」
「違うよー」
「これなんて書いてあんの?」
「児童養護施設って読むの。2人のニィがいるところだよ」

その言葉に反応したのはエマだけだ。マイキーははてなを浮かべている。なので努めて簡単に、実はもう1人お兄ちゃんがいることを教えてあげた。

「…しんいちろーが言ってたやつ?」
「あ、聞いてた?」
「兄貴がもう1人いたらどう思うって聞かれた」
「そっか。そのもう1人がここにいるんだよ。仲良くなれると良いね」
「ん、」

早く行こうとせがむエマと、楽しみと不安が混ざった顔をするマイキー。真一郎は時期を見て慎重に会わせたいと言っていたけれど、私は会わせるなら早い時期がいいと思った。家族のことになると殊更石橋を叩きすぎる真一郎に任せてたら、マイキーとイザナは一生会えないかもしれない。うだうだしている間に2人が思春期迎えてしまえば、拗れるような気もしたのだ。それなら、早い段階でお互いの存在を知っておいた方が絶対いい。男の子だし、子供のうちに喧嘩した方が後々仲良くなれると思う。ダメだったらまたその時考えればいい。

受付の人におじいちゃんから預かった委任状を渡して、イザナを待つ。最初会った時、お兄ちゃんだけが欲しかったと言われたので、私も好かれてはいないだろうけど、今回はエマがいる。渋々交流はしてくれるはずだ。

「オマエ、また来やがったのかよ。もう来んなっていっ…!」
「ニィ!!!!!!」
「エマ?」

文句を言いながら入ってきたイザナにエマが飛びつく。だるそうな目を開いて、年相応に瞳を輝かせる姿を見て、真一郎に内緒で連れてきて良かったとほくそ笑む。エマなんて相当嬉しかったんだろう。イザナのお腹に顔を埋めて泣きながら笑っている。マイキーはその様子をじっと見つめたまま、たい焼きを食べていた。どこまでもマイペースだな、弟よ。

「マイキーもいるよ。この子がイザナの弟ね」
「はあ?!」
「ナマエ、こいつがもう1人の兄貴?」
「そうだよ。エマのお兄ちゃんだから、マイキーのお兄ちゃんでもあるし、私と真一郎の弟でもある、黒川イザナくんでーす」
「ニィげんきにしてた?エマ、ちゃんと待ってたよ!あえてうれじいーーー!!」
「……うん、偉かったなエマ。ニィも元気だ」
「あ、イザナちょっと泣いてる?妹に会えて嬉しかろう嬉しかろう。私に感謝してくれていいよ」
「てめェ、本当にふざけんなよ…!」
「マイキーもたい焼き食べたらお兄ちゃんに飛びついておいで。真一郎より強いから遊んでくれるよ」
「ん、」
「おい、やめ…!」

ぺろっと最後の一口を飲み込んだマイキーが、天性のバネを使って助走をつけて飛び上がる。エマに抱きつかれたままのイザナ。反射で妹を守ろうと動いた彼の顔に、マイカーの小さな足がダイレクトアタックした。第一次、兄弟大戦勃発である。

「あははははっ!!2人ともやるね〜エマ危ないからこっちおいで」
「ニィとマイキー大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。男の子は拳で語った方が仲良くなれるって、誰かが言ってた」

それにしても、弟2人は身体能力が高すぎである。其々の手足をヒョイっと避けて、バランスを崩したままでも応戦できるって何事。取っ組み合いとまではいかなかったけれど、この後少し怖い顔の警備員さんに引き剥がされるまで、2人の戦争は続いた。

「さて。兄弟間の交流も深まったところでお弁当にしようか」
「……頭おかしいんじゃねぇの?」
「エマ、ニィの手を離さないでね」
「うん!!」
「マイキー、たい焼きはご飯の後です!」
「ヤダ」
「いや、聞けよ」