「やっほ!イザナ」
「……何でいるんだよ」

少年院の入り口で片手をあげる私に、イザナは心底嫌そうな顔をした。相変わらずの嫌われ様である。綺麗な銀髪が丸刈りにされていて、違和感が半端ない。ちょっと離れて歩く姿を見て、イザナにも思春期が来たんだなとしみじみした。隣を歩かれるのは嫌だろうと、2、3歩後ろを歩く。長い足を優雅に動かすイザナと、ひょこひょこ着いていく私。カルガモの親子みたいだなぁ、と思っていたら、うざいと言われた。いつものことである。

「何でって迎えに来たから。真一郎は今日お店で忙しいし、お爺ちゃんは腰痛めちゃったから今動けないんだよね」
「あっそ。それとナマエが迎えに来たこと関係あんの?」
「だって待ちに待った再会だしね!エマもマイキーも学校休んで迎えにいくってきかなくて、大変だったんだから」
「頼んでねぇよ」
「それでもだよ。真一郎の提案断ったんでしょ?何で?」
「…別に」

真一郎が、少年院を出たら一緒に暮らそうと、手紙で提案していたことは知っていた。その方がいいと思ったし、そのつもりで兄妹達にも話したのだ。勿論みんな快諾した。エマは一緒に暮らす気満々で、いつ帰ってくるのと毎日のように聞いてきたし、マイキーも顔には出さなかったけど、ソワソワと玄関を見ていたのに。
イザナからの返事は、否。それを見た真一郎の落胆さといったら、告白20連敗した時よりも酷かった。

「イザナも一緒に暮らしたいって思ってくれてると思ってたんだけどなぁ」
「当てが外れて残念だったな」
「施設に戻るの?」
「教える必要あるか?」
「私には言わなくてもいいけど、真一郎には教えてあげて。相当ショックでちょっと寝込んでたよ」

前を行く背中に問いかけると、イザナは悪戯っ子のように笑う。少しずつ出してくれる表情も増えてきたことを思えば、私にも気を許してくれてるのかもしれない。少しだけ嬉しくなった。

「あとそれから、はいこれ」
「…あ?鍵?」

ぽんっと、軽く投げたものを片手で反射的に受け取ったイザナは、眉を寄せてそれを見る。鍵につけていた鈴が、チリチリと手のひらを転がった。

「私の家の鍵。何かあったらおいで」
「……お前、家出たのかよ」
「出たといっても2日に1回は戻ってるよ。今は一人暮らしの予行演習」
「…」
「だから真一郎の提案をイザナが断らなくてもよかったんだよ。警戒しなくても私はいないんだから。今からでも家においでよ」
「…」

家族を誰よりも恋しく思っている彼が、それでも提案を断ったのは、多分私がいるせいだろう。あの家で唯一血の繋がりのない私と一緒に暮らすのは、違和感が強いのだと思う。まあ、それでも私は図太くみんなを家族だと思っているけどね。
部屋が足りないことも事実だけど、私がいたら安心して家に帰ってこれないんじゃないかと思ったのだ。私も成人後のことを考えれば、このタイミングで家を出るのは必然にも思えた。

「エマが泣くだろ」
「戻ってくるっていってもめっちゃ泣かれた。でもまあお試しだし」
「オレは帰らないんだから、ナマエが帰れよ」
「いいんだよ、これで。みんな逃げたくなったら私の部屋に来ればいいんだから」
「意味わかんねー」
「逃げ場は誰にだって必要ってこと」

やっぱり意味が分からないと呟いたイザナが足を止める。横に並んで足を止める。

「女の子連れ込まないんだったら何してもいいからさ」
「…気が向いたらな」
「あ、因みにイザナのバイクは私が預かってるから、否が応でも一回は私の家に来ないと足がないよ」
「マジでウゼェな」