殺人犯
「暗殺を生業とする家だったんです。私は落ちこぼれだったんですけど」
黙って壁に持たれたままの彼は、何を思ってこれを聞いてくれているのだろうか。急に泣き出して、泣き止んだと思ったら自分のことを話し出す。変なやつだと自分でも思う。
素直に私なんかに謝ってくれた彼に、何故か話しておきたいと思ったのだ。
「でも落ちこぼれの私が一族の秘技を受け継いでしまったがために、一族は私を残してみんな死んでしまった。猿鬼さんは一族の死体の中で私を見つけて保護してくれたんです」
猿鬼さんには感謝している。私が否定した全てを肯定してくれた。
生きたくない。生きろ。
私が悪い。悪くない。
私は弱い。お前は強い。
生きている意味がない。これから見つければいい。
生きたくない。生きろ。
私が悪い。悪くない。
私は弱い。お前は強い。
生きている意味がない。これから見つければいい。
何回同じ言葉を繰り返しただろうか。彼は私がそこから動くまで付き合ってくれた。偉大だと思う。血の繋がったいる者からはかけられなかった。私が欲しかった言葉をくれる。彼はそう、例えるなら血の繋がっていない兄だ。
「本来なら私、ここに入れられててもおかしくないんです」
囚人として。
猿門さんは初めて目を開けて反応した。私の目を真っ直ぐ見てくる。その目に少し怯んだが、猿鬼さんそっくりの目は私に続きを促していた。
「私の一族は『撤回』という技を先祖代々引き継いで来ました。数年に1度しか使えない大技です。読んで字のごとく、死を『撤回』したり、生を『撤回』したり。使い方は単純ですが、術者は内臓の弱い方が多かったらしいです。大きすぎる力の代償でしょうね」
自分の身体と声が震えていることに気付いて、彼から目をそらして掌を見つめる。傍からみても私が震えているのはわかってしまうだろう。みっともない。少しでも何とかしたくて、両手を固く握った。
「私は一族の中で本当に弱かった。身体も心も。きっと『撤回』を使えなければそこら辺に捨てられていたでしょう。だからこそ、一族のみんなは必死でした」
弱い私に一族をまかせるわけにはいかないと。
「罵倒して、殴って、蹴って。どうにか私を強くしようとしてました。私はそれに耐えられず『撤回』してしまったんです」
目を閉じて視界からすべてをシャットアウトする。今でも鮮明に思い出すことが出来てしまうあの光景は、今後忘れることはないだろう。
「私は一族を撤回する。そう呟いたあとは早いものでした」
子供の頃は蝶よ花よと育てられた。大きくなれば身体も強くなる。そう思われていたが、実際はそんなことはなくて。10歳にもなれば辛い修行ばかりが待っていた。身体は耐えられず、心も耐えられず。
その毎日が嫌で嫌で堪らなくて、私は言葉に出してしまった。きっと上手く使えなくて、でも、撤回を持つ者に言われたらびっくりするだろう。
そう考えて、幼い私は言ってしまった。
「無意識下で働いた力は、風になって一族の者をみるみるうちに殺してしまいました。でも術者の私だけは生き残ってしまった」
猿門さんの顔を見ることは出来ないけど、きっとまた嫌悪する顔でこちらを見ているのだと思った。兄に引っ付いているのが殺人犯だなんて嫌に決まっている。
せっかく仲良くなれそうだったのに、いきなりこんな話するなんて馬鹿だなと思った。でも違うのだ。
わたしはきっと、誰かに責められたい。
だからこれでいい。自分にそう言い聞かせた。
ほら私、殺人犯でしょう。
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