夢見心地の中
「で、寝てただけだと?」
「はい」
「また気絶したのかと思ったぞ」
「すみません猪里さん」
「気付いたのが俺で良かったな」
「本当にそう思います」
結局あの後気付いたら寝てしまってて、偶然通りかかった猪里さんに起こされた。71番はやっぱり疑われたらしい。流石に申し訳ないと思った。通りかかったのが猿門さんだったらシャレにならなかっただろう。間違いなく怒られたし、八力さん達でもすごい騒がれそうだし。なんなら猪里さんで良かったとすら思う。
「寝ないでって言ったのにー」
「寝るつもりは無かったんです」
そんなに言うなら起こしてとも思ったが、起こさなかったのは彼の優しさなのだろう。そう結論付けて競馬新聞を見つめる猪里さんに声をかけた。
「ここお願いしていいですか?」
「おー」
「...。頼みますよほんと...」
大丈夫ではないと思うけど運動場を後にする。九力さんに言われたように、看守室へ戻るのだ。仮眠室へ行けば少し寝てても大丈夫だろう。
かといって仮眠室へ入るところを誰かに見られたらそれはそれで心配されてしまう。どうしたものか。
▽ △ ▽ △
「六力さん」
「なんだ?」
「この書類って何処に出せばいいか分かりますか?」
「これは...6舎だな。丁度用事あるから行ってきてやるよ」
「え、ありがとうございます」
「お前...いや、うん。行ってくるな」
きっと普通は一瞬でも遠慮するだろと言いたいのだと思う。でも、残ってるのは六力さん一人だから頼んだのだ。
「行ってらっしゃいませ」
扉が閉じるのを待ってから奥の仮眠室へ向かう。もう瞼が重すぎて仕方がない。しっかり睡眠はとったが、先程の運動で疲れたのだろう。頭痛や腹痛、目眩が出なかっただけマシ。そう考えながらいつも自分が使ってるベッドに入った。
誰かが私がいないことに気づくまでには戻る。寝るのはほんの少しだけ。
自分に言い聞かせて目を閉じた。
△ ▽ △ ▽
「あれ?苗字居たんじゃないの?」
「また運動場に戻ったんじゃないか」
「えー、つまんなーい」
九力さんたちの声が聞こえたけどまだ起きる気にはなれない。何処が痛いとか、気持ち悪いとか。そういうわけではないけれど。少しまだ眠たいのだ。
医務室のあまり動けない生活のせいで体力が落ちたのだろうと思う。自分の身体が原因だからなんとも言えないけど。もともとそんなに体力あったわけではないし。
入院中に特異体質だなんだと調べられて、体の不調を抑える薬が新しく薬箱に増えた。原因がわからないからあまり薬は使って欲しくないらしい。どうしてもギリギリな時に使えと、種類が多すぎて救急箱サイズの薬箱を渡された。
ぼーっとしてたら時間が経つのも早いもので、仮眠室の外で騒ぐ声も無くなった。みんな上がったのだろう。きっと私がベッドに入ってから2時間はたったはずだ。
眠気もだいぶ無くなったし、体の不調もないから起き上がる。看守室からはなんの音もせず、誰もいないだろうと躊躇い無く扉を開けた。
明かり付けっぱなしじゃん。なんて考えてる場合じゃなかった。
「よぉ」
「あ、」
やらかした。
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