悪夢のよう

「お前、いつからそこにいた?」
「2時間ぐらい前ですかね」

沈黙がとてもつらい。めっちゃ不機嫌な猿門さん。目付きで人が殺せそうですね。

「じゃあ、私帰りますね」

逃げるが勝ちといわんばかりに荷物を取って帰ろうとする。怒られるの嫌だし...。前までは眠気が襲ってくることはあってもここまで酷くはなかったし、報告しなかったことは絶対に怒られる。

「お疲れ様でした」
「なぁ」
「はい」
「俺ってそんなに頼りないか?」

主任からの言葉に声も出ないくらい驚いた。そんなわけない!と声を上げたくても視界に入った猿門さんの顔に何も言えない。さっきまであんなに怒ってたじゃないか、あっちの方がまだマシだった。この顔をさせてるのが私なんて悲しいなぁ。

「そういうわけじゃないんです」

「ごめんなさい、猿門さん」

「伝えてないことがあります」

1つ1つゆっくり話す。出来れば言いたくなかった。看守辞めろって言われてしまうかもしれない。
貴方が教えてくれて貴方に近付けたのに、私が身体を壊している間に貴方は1人で先に行ってしまうから。やっと見えた背中がまた見えなくなる。その繰り返しはもう嫌だった。

「前よりも脆くなったみたいなんです。起きていられる時間にも制限がつくようになりました。薬では抑えられません」

ちゃんと目を見て伝える。これも彼から教えて貰ったこと。お前は人の目を見て会話が出来ねぇのか!って言われたのが懐かしい。猿門ももちろんこっちを見ていて、とても気まずいけど、でももう仕方ないから。教えて貰ったことは1つでも取りこぼしたくないもの。

「なんで黙ってた」
「迷惑をかけたくありませんでした」
「そんなの迷惑だと思わねぇよ」
「申し訳ありません。どうしても言いたくなかったんです」

頭を下げて謝罪した。座っていた猿門さんが立ち上がってこちらに来る気配がする。なんでだろうと思っていたら頭に手を置かれた。
びっくりした。意外と手が大きいんですね。すごくほっとする。

「お前は俺の部下だ」
「はい」
「何かあったら俺が助けてやれる」
「はい」
「お前が五舎にいる間はお前がやりたいならやらせるに決まってんだろ」
「はい」
「お前は俺の弟子だからな」
「ありがとうございます」

彼は私が恐れていることが何か気付いていたらしい。

泣いてないって言ったら嘘になるし、隠せてると思えないけど彼は見回り行ってくるなって言って看守室から出た。相変わらずかっこいいなぁあの人は。気配が消えてから涙を拭って、上を向いて息を吐いた。

「大好きです、猿門さん」

本人の居ないところでしか言えないけど、許してね。私の恋心。
あの人には片付けなきゃいけないことがあるから。
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