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デッドロックは、 くすりと笑ってあたりを見回した。 ぱちりと視線がかち合えばそそくさとそらされるその姿に、 嘲笑が零れる。
「影でしか何も言えねえクソ野郎共が…」
休戦協定指定区域になっているとはいえ、 総括している医師がオートボット側の者である以上必然的に、 患者もオートボットの占める割合が高くなることは当たり前の事である。 中には、 オートボットとディセプティコンのどちらの医者も存在する病院もあると聞いたが、 デッドロックの知りえる限りではそんな病院は見たことがない。
そんな中に単機でまさしく乗り込んできたデッドロックが、 どのような視線で物事をいわれるかぐらいは充分に理解していた。 だが、 そんなことは些細なことで全く気にも留めなかった。
デッドロックはここにいる者たちを見て、 自らの知る病院とは大分違うと気づいた。 遥か清純の地では、 治療室とはいえども活気に満ちていたし、 昨今の病院では患者同士でのいさかいや小競り合い、 もしくは殺し合いなんかも珍しくなかった。
ディセプティコンで重んじられた力は、 戦争が終わってからというもの、 その力ゆえに苦難の道のりを歩まされていた。 それはデッドロックしかりである。 単純に目の前の脅威を取り払っていただけのデッドロックの名は何時しか、 知れ渡り恐怖の対象になった。
「…… おい」
少々胡散臭い顔をしたその医師に、 尋ねればそこの病室にいると言われた。 感謝の言葉でも述べるべきかと惑うデッドロックであったが、 医師はもうかかわりあいたくないとでもいいたそうに、 そそくさとデッドロックから離れていった。 その姿に若干苛立つが、 怖いものは怖いのだから仕方がないかと視線をそらした。
「…… まだ寝てんのかよ」
デッドロックは長くため息をついた。 その下で眠るウィングに向けて、 言葉をつないでいく。
「戦争が終わったぞ、 で、 ドリフトの方が勝った」
自分の思い描いた戦争の終結とは大分違ったと、 心の中で思う。 星内だけの争いは何時しか星外へと、 広まり宇宙自体を大きく巻き込んだ。 最も偉大なる文明を持つ星であったはずのセイバートロンは、 いまや最も不毛な大地へと大きく姿を変えていた。 戦争は終結したとはいえ、 総てのディセプティコンが納得したわけでもなければ、 総てのオートボットが納得したわけでもない。 復興への道のりは長く険しく混迷を極めていた。
そして、 デッドロックはディセプティコン側の者である。 当然、 煙たがれ明日をも知れぬ身である。 自分が死んで悲しむものがいるとは到底思えなかった。 それよりも、 恐らくデッドロックはいつか殺されるとさえおもっていた。
デッドロックはあまりに多くを殺しすぎてしまった。
だが、 後悔はしていない。 それでも、 この姿をあの清純なる地の者達へ見せることに大きな戸惑いを感じていた。 が、 戦争はデッドロックのそんな感情さえも消してしまった。 清純なる故郷の姿はどこにも存在しなかったのだ。 どちらの軍勢がそこに侵攻したのかは定かではないが、 目の前の荒廃した地はデッドロックが、 ウィングが、 そしてドリフトが、 多くの者が愛した地ではなくなり、 この星を埋め尽くす不毛な大地の姿とまったく同化していた。
ウィングの行方がわからなくなったと、 沈んだ気持ちでその地を歩いていた。 そのときにふと思いついたのが、 あの奴隷船の存在であった。
あの船は切り立った崖に直撃して墜落した。 故にあの地を訪れるものは滅多にいないはずだった。 何が何でも自分がここにいたという証がほしくて必死であった。
その存在は実に奇跡的にそこに存在していた。 朽ち果てて今にも崩れ落ちそうになり、 崩落している箇所もいくつもある。 だが、 確実にそこにあった。 ふと懐かしさがこみ上げてまわりをみてまわり、 その奴隷船の出入り口に記してある文字に、 デッドロックは首をかしげた。 こんな文字が果してこの船にはあっただろうかと。
落書きのようなその文字に、 幼き頃にドリフトが書いたのだろうかと考え込むが、 ウィングにつれてこられるまでドリフトもデッドロックも字は読みも書きもできなかったし、 その後だってドリフトはうす気味悪がってここに近づいたりはしていないはずだ。 そして、 デッドロックもなんらかのいたずら書きをした記憶はない。 つまり自分が書いたものでもドリフトが書いたものでも、 もともと船に書かれていた文字でもないということだ。 ますます頭を抱えて気がつく。 この配列はもしかしたら誰かが何か言いたくて残したものなのではなかろうかと。
その謎の配列を、 覚えてとにかくその場は後にした。
「ターモイル」
「どうした」
「この配列ってなんだ」
ディセプティコン内でも唯一自分を恐れなく、 また、 唯一まともに話の通じるターモイルはデッドロックの見せた配列に言い放った。
「住所だ」
「住所?」
なんだそれと、 口にはださなかったがデッドロックの言わんとしていることはターモイルに感づかれたらしい。
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