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一般的な事もしらないのか、 お前はどこで何をしていたのだとターモイルが言わんとしていることにデッドロックも気がつきむっと口を引き結んだ。 排気まじりにターモイルは説明してくれる。
「その建物がどこにあるのかの場所を示したものだ。 今は座標が主流だが、 一昔前まではそれが通常つかわれていた。 いまよりもまともな建物があった時代には有用だったからな」
「……… へえ」
「それがどうした」
「なんでもねーよ」
「何かあるのか」
「うるせーななんもねーよ!」
そして、 その住所にそって導かれた先にウィングはいた。 『UNKNOWN』と書かれた名前の欄に、 デッドロックは言った。
「ウィングだ」
デッドロックの言葉により、 ウィングは名簿に登録された。 そうしなければおそらくドリフトが気がつかないであろうと思ったからだった。 本当ならば、 自分ではなくドリフトにやってもらいたい行為ではあるが、 ドリフトはあんなところには恐らく行かないし、 あの伝言はおそらくデッドロックにあてられたものであると思っていたが為に、 気づいてほしいなんて思うのはやめた。
だが、 ここはあまりにもオートボットの目がありすぎた。 以降デッドロックは滅多なことがない限り、 ウィングの元へは行かなくなった。 行くときも注意を払っていた。 いくら、 ここが休戦指定区域内だとしてもここでは自分がどれだけお尋ね者であるかは充分理解していたし、 ディセプティコンの中には休戦指定区域であろうと戦をしかける者達が居ないわけでもない。
オートボットの勝利という形で終結した戦争はディセプティコンであるデッドロックの立場を更に悪くした。 もう、 二度と此処にはこないだろうと、 デッドロックはウィングの頬に触れる。 いつかウィングが目を覚ましても、 恐らく二度と会うことはないであろう。 デッドロックのやってきたことは総て罪となってしまった。 反逆者として、 史上最低の戦争をもたらした者の一員として、 デッドロックは再び虐げられる立場になった。
誰かに虐げられるこんな姿はウィングには見せたくない。 あの日、 虐げられていた己を救い、 俺もお前も同じだといってくれたウィングだからこそ見せたくなかった。
最後の最後までいえない言葉があった。 聞えていないとは思っても今が最後だと、 息を吸い込んで、 デッドロックはいった。
「ありがとう」
―――――
デッドロックの様子がどことなく可笑しいことにターモイルは気がついてはいた。 だが、 それがなぜかはわからなく、 またデッドロックにたずねても答えが聞き出せないことは知っていた。 そして、 ターモイルはデッドロックに触れられなかった。
デッドロックの視覚器はたまにとんでもなく虚空を写していた。 その視線に、 ターモイルは戸惑いを隠しきれず、 あろうことか恐怖さえも抱いていた。 らしくないと言われることは百も承知していたが、 とはいってもその恐怖は恐れではない。 ターモイルが感じた恐怖とはその存在を喪うことそのものであった。 デッドロックがそう易々と誰かに敗北することがないことはわかってもいたし、 知ってもいた。 だが、 ターモイルが感じていた喪うことへの恐れはそれだけではなかった。 もっと本質的な何かを、 ターモイルはただ恐れていた。
無心になって、 銃の手入れを行うデッドロックにターモイルはふとたずねた。
「…… お前は何を見ている」
「はあ?」
デッドロックは面倒くさそうにターモイルに答える。 その視覚器が何をいってるんだと訴えているのを感じて、 笑いが零れその笑いをなんととったのか、 せせら笑いながらデッドロックは言う。
「頭でもイカレたか?」
デッドロックはターモイルの言おうとしている事を悟ろうともしなかった。 それでも、 今のデッドロックの視覚器はターモイルが厭って嫌うあの虚空を見つめてはいなかった。 そのことに安堵し、 排気をつけば、 デッドロックはターモイルから視線をそらし、 ただ手元の銃を磨き上げていく。 普段粗雑なデッドロックではあるが、 手入れだけは怠ったことがないとそのことにも疑問を抱く。
以前よりはすこぶる性能が向上し、 めったな手入れもいらないはずなのにデッドロックは定期的に、 それこそ毎日のごとく銃を磨く。 答えが得られるかはわからないがターモイルはデッドロックに聞いた。
「お前は毎日それを磨くが何故だ」
「俺なりにいたわってんだよ」
適当な返事を返され、 だがもしかしたらそれが本心なのかもしれない。 かちんといたずらにデッドロックはターモイルに銃をむけて空撃ちし、 面白そうに言った。
「すごい昔、 ハンマーがさびてたの気がつかなくてさ。 殺せなかった相手がいたんだよ」
「殺したいのか」
「いや別に?」
デッドロックの足りない言葉をどうにか補えば、 おそらくその相手を殺したいという感情ではないことがすぐにわかった。 おそらくそれは思い出に程近いのだろう。 まじまじとデッドロックを見つめるターモイルの視線に、 首をかしげてデッドロックが言う。
「…… なにみてんだよ」
「お前に過去があったことに安堵している」
「なんだそれ。 ターモイルだって、 なんらかの過去はあるだろ?」
「ないわけではないが、 お前の過去はなぞだらけすぎて信用性にかける。 機体の作りもずいぶん旧式だしな」
「うっせーな、 お前に関係ねーだろ」
ぎろりと睨まれ、 それ以上の話は終わりだとでもいいたそうにデッドロックは押し黙った。 まったく不機嫌になりやすい部下だとは思うも、 多少デッドロックのことがわかっただけでターモイルには尋ねた価値があると思いそのことを咎めはしない。
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