そういえばマッハキックは男だったなあと、 ロングラックはベッドの草の奥底から出てきたお宝『劣情★ふぁんたじー』を見てぼんやりと思う。
マッハキックの全てを知っているわけではないが、そこそこ知っているはずではあったがこんな本があるとはおもっていなかった。とは言え、なんでこんな所にこんな本があるのかなんて問い詰めるような野暮はしない。
第一そんなこと、 ロングラックのプライドが許さない。 『あくまで』『仕方なく』というスタンスをくずすのはなんとなく嫌だった。
忘れてしまったのだろうと、 ロングラックはぼんやりマッハキックを思い浮かべた。
自分のお宝をどこにやってしまったかわすれてしまうなんてどういう了見だと思うも、 一人寝の時期が長く続けばこんなのの一冊くらいまた買いなおせばいいくらいにしか思わないのだろうと ぺらりとページをめくる。
人生経験上初めてのお宝がこんな形で手に入るとは思わなかったと、 ロングラックは再びページをめくる。
だがそのあまりの生々しさに開いては閉じ開いては閉じを繰り返し無駄にマッハキックのベッドに寝転がってみたり、だが気になる。 誰も来ない、誰もいないと確信して、一気にページを開いた。
「ぇぅぅぅぅぅ…」
適当に開いたページの一面に現れた受容部と接続機の絵。
その光景にある種の恐怖が芽生える。
本のタイトルが「ぬこぬこらぶほーし」であるかわからないが、猫のトランスフォーマーがまたたびにとろけているそのありえない顔に誇張しすぎではなかろうかと、 少しなえる。
そんな恐怖すら与えるようなお宝を再びひらいてさっと目を通し、 こくりと頷いた。
「内容はまともですね」
のっていたのは実に幸せそうな話であった。 幼馴染と離れ離れになったその人がまた同じ人と恋する… そんな奇跡があるのかと思うが信用できない話ではないかもしれない。
当然、 お宝なのでそういった行為もするわけではあるが、それが実に幸せそうに見えた。
ロングラックからしてみれば、 理想であり、 かといって今の現状に満足していないわけではない。
相変わらずいびきはうるさいが最近は諸事情… このお宝と同じような行為にふけっているためか、 ロングラックが先に寝ることが増えているためあまり気に出来なくなった。
そこでふと思う。 これを理想にしてはどうだろうかと。つまりこれを手本にすればこういう理想のようにいくのではないか… ロングラックはふむと一つ首をふった。
正直な話、 ロングラックは経験が浅い。かといって、 「教えてください」とか言えるはずも無い。
何かで検索するのもいいかもしれないが、 誰にもしられないで検索するというのは不可能だ。 もしなにかの弾みでばれたら困る。
ロングラックの願いはたった一つ。ばれずに練習することにある。
どうせ忘れられているお宝なんだから、 拝借したってなんら支障はないだろうと、 廊下に誰も居ないことを確認しつつすばやく自分の部屋に戻った。
隠し場所にこまったあげく、 最終的に布団におしこんだ 。
−−−−−
訓練上がりのその日、ロングラックは早速その内容を熟読する。 どきどきと高鳴る上に挙動不審な対応ではないか確認をするも、実質一人なので問題は無い。
一つ再びため息を吐いて、すでに教科書と化しているその本を読む。
「あっ、ぅんっ!やん!らめっ!」
と声にだしていってみるがいまいちそそられる気がしない。 マッハキックのいびきが聞こえてくるほどに防音が聞いていないのは周知されている通りであるゆえに大声で練習するわけにもいかない。
深々と息を吐いたときだった。
「なにやってんだ?」
「ああ、マッハキック、おはようございます」
「おはようじゃなくて」
「こんばんは」
宇宙空間に時間などあってないようなものなのだから、おはようもこんばんはも間違えているような気がするがこの際どうでもいい。挙動不審に陥りそうな自身をどうにかおさえ、 本の山を片付ける振りをしてお宝をまぎれこませた。そんなロングラックとは裏腹にのんきそうにマッハキックは聞いてくる。
「なにしてんだ?」
「勉強です。 ブラックホールにのまれた…、あなたは何をしに僕の部屋に?」
「探し物してんだよ」
「探し物? まったく、 あなたはすぐにものをなくしますね」
「本さがしてるんだよ」
一瞬ちらりと、 よぎった考えを打ち消してロングラックは会話をつづける。
「どんな」
「まあロングラックには関係ないだろうけどな」
おもむろにしゃがみこんだマッハキックはベッドの下に手を突っ込んだ。 突拍子もない行動に驚いたロングラックは慌ててマッハキックをとめるべく言い放った。
「な、何してるんですか!」
「そういうの隠すのにはここだなって思って」
「ぼくが何を隠すって!?」
「お、きれいに掃除してあるな」
ロングラックの言葉を完全に無視したマッハキックは気が済んだのか、ううんとうなって立ち上がった。
「ない」
「もー…。あなたの部屋からぼくが何をとるっていうんですか…」
やれやれとあきれたロングラックと反対にきょろきょろと、 辺りを見回したマッハキックはにこやかに笑いかけて言い放った。
「俺の部屋に入って掃除してくれるやつってお前しかしらないんだ」
マッハキックは机の上に無造作に置かれた本を、 一つ一つ探りだした。
「あ」
そこはまずい… とロングラックがとめるまもなく。
「あった」
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「なんでロングラックがこれもってんだ?」
「黙秘します」
「できないけどな」
「黙秘、です」
「ロングラックはえろ本盗むってうわさがたつぞ」
ぐ、と排気が詰まった。
「…… 参考に」
「参考?」
こういうとき、 マッハキックは常に対話の姿勢を示す。それが、 いいところでもあり(本人にはいわないが)今は悪いところである。 言わない限りマッハキックはロングラックの部屋から出ていかないだろうが、 言い出しにくいのは変えようの無い事実であった。 こんなときにどこかの恋人たちが問題でも起こしてくれればいいのだが、 ロングラックに救いの手は差し伸べられなかった。
「だから… そういった行為の、」
「なんのために?」
「なんのって…」
なんのもかんのもないのだが、 と思いつつロングラックは言う。
「あなたの本ですよね?」
「ああ」
「そういった気分になるから買ったんですよね?」
「ああ」
「じゃあ、 ぼくが真似をしたらそういう気分になるんですよね?」
マッハキックの沈黙にロングラックはぐるぐると自分の言葉を考え直した。
「誘っ」
「断じてそうじゃないです」
「ほん」
「違います。ちがう」
少しずつ熱っぽくなる機体の温度を隠すべく、 ロングラックは背中を向ける。
とんでもないことをしでかしたことくらいはわかっていたし 背中でにやにやと悪い笑みを浮かべるマッハキックの様子がみてとれた。
「教科書にしてたのか」
「帰ってください」
「それで声に出してよんでたのか」
「いつからいたんですかっ!?」
思わず振り向いて、確実に視線があうのがわかった。
まずいと思ったがすでに遅くあっという間にからめとられて押し倒された。
「結構最初から見てた」
「へぁっ、 なんで声くらいかけたって…!」
「お楽しみ中じゃまずいだろうよ」
「じゃあ部屋に入ってこなくたっていいじゃないです、あ、んぐっ!ぎゃ、なにする、んふぅ」
ロングラックが文句を言うべく喋る唇を塞ぐように口付けられた。 もがいて暴れるロングラックの言葉を飲み込むように巧みに舌を弄ばれる。
徐々に詰まる排気に、 ロングラックが胸を叩いて訴えんとしたとき急に唇を離された。
「ふぁ、あぁんっ?!」
ようやく開放された唇が空気を吸った瞬間、 内腿を撫で上げられた。
「やあっ、なに、ひぇっ!」
「ずいぶんかわいい声だな」
「ちがぁ、 なん、んゃ、そこっ」
機体は既に情を思い出しつつあった。 じんわりと下腹部が暖かくなる感覚に、 あわてふためいてしまう。
己の機体は馬鹿になってしまったのかと、 そんなことをおもっているうちに、マッハキックは受容部の蓋をあけていた。
「ちょ、 どこあけて、 」
「しっかり濡れてるかどうかな?」
くちゅりと触られたことにびくっと一つ身震いした。
「ね、 ね、ねぇ…」
「やめない」
ロングラックはぎゅと唇をかみ締めて受容部を撫でるマッハキックの指の動きに耐えようとする。 だが、 優しくなでられるような感覚はとてもじゃないが耐え切れるようなものではない。
「ふぁ、ぅぅう、、んぁ、」
「いい子だな」
ちゅ、ちゅっと音を立ててされる口付けはなんだか戯れのようで、 だが確実にロングラックを蝕みつつある。 現にロングラックの脳内は文句の言葉もわからないくらいにとろけてしまっていた。
「じゃあ、 ロングラック。 教科書の中で俺はどうしてた?」
「…、ふぁ?」
「首かしげてもダメだぞ」
ロングラックは劣情にかられて回らない頭で教科書が何をするか考え、 みるみるうちに眉をよせた。
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鳳櫻月雨