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恐怖におののいた先程の機体とは違い、こちらの機体は恐怖に震えながらも精一杯の抵抗を示していた。一歩も距離を近づけず、ウィングはその幼体達の様子を観察する。今の時勢に幼体なんてめったに見られないと思っていただけに、少々の驚きをウィングも隠せなかったのだ。幼体は真っ先に狙われ殺されるものであるという認識があったためであった。庇護の元でしか生きられない幼体であるが故に、にわかには信じがたかった。
そして、ウィングに銃口を向けている幼体の方は、両足が膝より下はなかった。なるべく優しくウィングはたずねた。
「お前たちは誰かな?」
だがその笑みは逆に恐怖心を与えてしまったらしく、隠れている幼体がびくりと肩を揺らしたことに気がついた。
「俺は悪い奴じゃない」
「みんなそういうけどみんな悪い奴だ!出て行け、」
後ろの幼体の恐怖心を和らげるように、銃口を向けたまま怒鳴りつける幼体に、ふむとウィングは剣を下においた。
「それは向けたままでいいから、名前を教えて」
恐る恐るといった様子で隠れたままの幼体が顔を上げる。懐疑の視線はそのままに銃口を向けた幼体がいう。
「お前から名乗れ」
「俺はウィング」
「奴隷商人か」
「違う」
「なんでこんなところに居るんだ」
「俺の問いにも答えてほしいな」
ウィングの言葉に、視覚器を揺らししかたがなさそうに、幼体はいう。
「…… デッドロック」
「後ろの子は?」
「ど、どり、ふと」
怖がって答えるその様になんだか骨が折れそうだと、ウィングは排気しそうになってやめた。
「よろしく、デッドロック、ドリフト」
「何してる」
即座に始まった質問攻めに、ウィングはゆっくりと言葉を選んでいう。
「少し前に墜落した奴隷船があって、その方たちを弔ったんだ。その船が今どうなっているか気になってね、それで、その墓が掘り返されたみたいだったから」
「ドリフトに何をした」
「何もしていないよ。でも少し怖がらせてしまったかもしれないね。ごめん。じゃあ俺がドリフトに質問してもいいかな?」
視覚器を揺らしながら、ドリフトはウィングを見た。
「墓を掘り返して何をしていた?」
「…… 怒る?」
本当ならば怒りたいのだが子供相手に怒るとはいえない。仕方なしに、ウィングは言った。
「怒らないよ」
恐らく怒るけれどと、心のなかにだけとどめておく。ゆっくりと、ドリフトは言った。
「…… 食べ物」
「… え?」
「あの、 あの人たちの、 機体にのこってた、それ、がほしくて…、デッドロックは、うごけないからとおくにいけなくて…、 あの、いけないってわかるけど、その…」
語尾にいくにつれてちいさくなる声に、ウィングはようやく納得がいった。
「いけないってわかってるんだね」
「俺がもってきて良いって言った、どうせ死んでるんだから」
デッドロックはドリフトをかばい続けている。 だが、デッドロック自身の足もまた、無残にも動くことは出来ないほど損傷している。
「その足は?」
デッドロックは黙り込んでしまい、だが、その後ろでドリフトが答えた。
「俺を、かばったんだ。 天井、落っこちてきて、それで、 」
「うるさい、 そうじゃない、 」
下に置いた剣を、ウィングは背負いなおした。力を抜いていたデッドロックがそのことに慌てて銃を握りなおす。
「大体話はわかったよ。それじゃ行こうか」
「い、行く? どこに、!」
「俺の家」
「は、? や、やだ行かない!!」
デッドロックは銃口をウィングに向けたまま、身じろぎした。だがその足ではどこにも行くことが出来ない。ドリフトは、そんなデッドロックの腕をつかみ、離すまいと縋っている。
「いつまでもここには居られないよ」
「うるさいあっちいけ」
「デッドロック、お前の足も直さなくちゃいけないし」
「かまうもんか!」
ウィングは困り果てていたが、その後ろでドリフトが言った。
「う、ウィング、あの、デッドロックのこと、助けてくれるの?」
「ドリフト、構うな」
「あの、俺はどうなってもいいから、その、デッドロックのことは、助けて、」
「黙ってろよドリフト!」
ようやく排気を吐いて、ウィングが言った。
「引き離したりしないよドリフト」
まだ安心してはいないようなドリフトだが、一つこくりと頷いた。だが、デッドロックにいたってはドリフトより更に納得していないようだった。
「デッドロック聞いて、 俺は君を助けたいんだ」
「うるさい、 助けなんて要らない!」
「ああもう…」
ウィングはデッドロックに手を伸ばす。その姿に、デッドロックは銃を震えながら向け、対するドリフトもぎゅうと、デッドロックの腕をつかんで自分のほうに引っ張る。
「う、うつぞ!」
「うん。撃ってごらん」
「ほ、ほんとにうつからな!」
デッドロックの指が、銃の引き金を引き…、 かしんと一発乾いた音が鳴った。呆然とする小さな二体に、ウィングがくすくす笑って言う。
「ハンマーの部分が大分さびてるからね、それじゃ火花は散らないよ」
「や、やめろーーー!!」
さながら幼体さらいだなあと少し面白くなってくる。 担ぎ上げたデッドロックは暴れているが、そもそもの力が不足しているらしく次第に暴れることもままならなくなってくる。そんなデッドロックを抱え上げたまま、ウィングは外に出て辺りを見回す。誰も居ないことを確認して、船の中に戻る。
「ドリフト、外には誰もいない、 おいで」
「う、うん…」
「少し歩くけれど大丈夫?」
「デッドロックのため、だから」
ウィングのそばにぴたりと張り付き、デッドロックを気にするドリフトにウィングが言った。
「賢いね」
その頭を撫でてやろうとし、手をかざした瞬間にびくりと身を震わせたことにウィングは気がついたが無視する。 気づかない振りをして、頭を撫でてやる。そして疲れて動きたくない様子のデッドロックにむかって言う。
「もう暴れるのは終わりかな?」
――――――
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