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ウィングが幼体をつれてきたという話は瞬く間に広がり、珍しいものを見ようと幾人もが好奇の視線を向けてくる。あまりの人手にデッドロックはむすりと黙り込み、対するドリフトはさらにぴたりとウィングに張り付く。 若干、歩きにくいがそれを指摘するのも気が引けたため何も言わない。

「ウィング!待ってたよ」
「先生、急な話ですまない」
「いいよいいよ、で、名前は?」

突然話を振られたデッドロックはびくりと機体を揺らし、ドリフトはウィングの後ろに隠れてしまう。
だが、先に行ったのはデッドロックだった。

「で、デッドロック」

つられるようにドリフトも言う

「ドリフト…」

医師はにこりと笑って言う。

「じゃあ、とりあえずデッドロックはここに寝て」

慌てたのはドリフトだった。

「せ、せんせい、あの、俺も一緒にいた…」
「ん?」

バチバチバチバチッ… そう派手な音を立てて溶接の光を散らす医師に、震え上がったのはデッドロックだった。

「こ、ころされる!!」
「今から直すのに失礼な子だなあデッドロックは、ああデッドロックは飛行型だ」
「やだやめろやだやだやーっう”!!」

ばつんと盛大な音を立ててデッドロックの視覚器から、光が消えた。さあっと青ざめたのはドリフトだった。

「デッドロック、デッドロックおきてデッドロック!」
「動力が枯渇してるのに動いたからおちちゃったんだね」
「し、死んじゃう!」
「死にはしないから安心しなさい、さあ、ドリフトは外にでようか」

ウィングがそういえば、不安そうにドリフトはウィングを見上げる。

「お前も小さい怪我をたくさんしているから直す必要があるね」
「うーん、困ったなあ」

医師がそう言いながら、ウィングを振り返っていう。

「この子の足は結構特殊みたいで替えがない。この子の足って落ちてなかった?」
「いや、見当たらなかったな」
「じゃあこの子はもう空を飛べないね」

その話を聞いていたドリフトが叫んだ。

「なら俺のあしをデッドロックにあげる! だめだ、デッドロックが飛べないなんて、…!」

ついぞ初めて聞いた大声に、ウィングは驚いていた。 だが、医師は冷静にドリフトに言う。

「ドリフト、気持ちはわかるけど」
「あ、あの、デッドロックはすごくきれいに空を飛ぶんだ、おれなんかよりもっとずっと、それに、おれのかわりに」
「ドリフトが飛べなくなるよ」
「お、俺はいい、もともとそんなにそらはすきじゃない、だから、ーーっうぐ!」

バツン… 再び盛大な音が鳴って、ドリフトの視覚器は光を喪った。理由はまさしく、デッドロックと同じだ。

「…… ずいぶん互いが大切みたいだね、スパークを分けたみたいだ… っと、どこにいくのウィング」
「ダイアトラス様に弁明しなくては」
「お怒りだろうね」

治療室に二体を預けたまま、ウィングは円卓への廊下を歩く。ダイアトラス様はさぞお怒りだろうが、それよりも二体のことを思うと心が躍る躍る。 これからダイアトラス様の下にいくのにもかかわらずずいぶん上機嫌だなあと、ウィングの様子を周囲はただ見守っていた。おそらく、ダイアトラスの怒声が聞こえてくることを予測していて。

… しかしダイアトラスは怒りを通り越してあきれていた。 ウィングの報告をただ黙って聞き、何も言わずに大分が経過していた。沈黙が得も知れぬ圧迫感を与えてくるなんとも居心地の悪い時間だった。ウィングがどうしたものかと、みじろいだ瞬間ダイアトラスが低い声で言った。

「本来ならば今すぐお前を追い出したい。だが、最後の機会だ、面倒ごとになったらお前ごと追い出す」
「と、いいますと?」
「あやつらの面倒はお前が見ることにする。 何かしでかしたら直ぐに追い出す。あと…」

ダイアトラスは排気をつきつついった。

「今後何かを拾ってくることは決して許さない。決してだ。ターボフォックス一匹許さない」
「… わかりました」

幾度か拾って帰ったことがある以上何も言わずに頷く。今度のダイアトラスは本気らしく声を荒げることもせず実に冷たくウィングを見つめていた。その視線が、円卓の空気を実に冷え冷えとさせていた。

「目を覚ましたらつれてこい、下がれ」

短く告げられてそそくさと退室する。ダイアトラスの傍らに控えるアックスと目が合えば、口角を上げて実に面白そうだった。もし追い出されてしまうようなことがあれば、アックスに一言言ってもらおうか… 等と、いまから画策する。当然今後も何かは拾ってくるつもりであったし、助けを求めるものの手を拒むわけにはいかなかった。
個人回線に、届いたメッセージを確認すればどうやらデッドロックとドリフトの機体の修理は終わったようであった。 目を覚ましたときにそばに居てやるべきか悩んだ末に、ウィングは足早に治療室に向かう。

「ダイアトラス様は何だって?」
「今後何かを拾ってきたらこの子達と一緒に追い出すって」
「おお、今まで捨てて来いは言ってたけど、追い出すは行ったことなかったね」
「本気みたいだ」
「でもよくそういうのに出くわすね」
「体質らしい。 面倒ごとを持ってくる体質」
「面倒ごとっていう自覚はあったんだね」

きゅるりと視覚器が絞られる音がして、ウィングと医師は下を見る。どうやらドリフトが先に目ざめたらしかった。

「…… 、?」
「おはよう」

突然明るくなった視界に、ドリフトは戸惑いながらも飛び起きた。 周囲を見回して後、自身の傍らに眠るデッドロックを見やって言う。

「あ、あの俺のあし、デッドロックにあげて、…」
「そうしたから安心して」
「本当?」


鳳櫻月雨