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伝えたときのダイアトラスの顔が浮かぶ。彼は失望も絶望も浮かべずただ、怒っただけであった。 頭を冷やせと短く言い、そして一向にデッドロックを追い出そうとしなかった。 彼の右腕であるアックスの言葉もまた胸に刺さる。
「ウィングは了承したのか?」
アックスは知ってていっているのだ。己がウィングに了承などとっていないことを。だが何と言えばいいのだろうか。殺したい奴がいるから此処を抜けて、ディセプティコンに加わる… 等普通では到底言えない。だが、 ダイアトラスに殴られ医師の治療を受けた後に帰った自室では、 ウィングはもうその話を聞いたようだった。怒られるだろうかと、身構えていたのにも関らずウィングは短くこう言ったのだ。
「おかえり」
そのときに初めて、帰ることの出来る場所がわかった。決して失いたくないと切に願った。故に離れられなかった。だが、この言いようもない憎しみはデッドロックの心をぎゅうと締め付け、何にも変えられない寂しさすら与えるのであった。
失いたくないものであり、自分にはまぶしすぎるものである。この奇妙な違和感に、デッドロックはどうしたらいいのかもわからなかった。そして現状維持を決め込んでいる。
言うことを聞かなければいつでも追い出すと言ったダイアトラスが、 ウィングとデッドロックとドリフトを追い出しにかかったことは過去に一度しかない。そのときは確か実にくだらない理由だった筈だ。はるか昔の事すぎて、よくおもいだすこともできないほどくだらない理由だ。
「デッドロックー!」
ドリフトが己を呼ぶ声がする。なるべく不機嫌そうな雰囲気を装って、デッドロックはドリフトに言った。
「うるせえなんだよ!」
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違和感の破綻はあっけなかった。 もう居る意味なんてないのだと知らされたような気持ちであった。 だがそれを誰にいえると言うのだろうか。
ドリフトがその日の夜、 デッドロックはドリフトに言う。
「お前はここにいろ。」
戸惑ったように視線を揺らして、ドリフトは言った。
「デッドロックはどうするの?」
「俺は…」
「まさかディセプティコンに入るわけじゃないよね?」
ドリフトの不安げに揺らぐ視覚器に、 何もいえなくなって黙り込んだ。
「行かないで」
「俺はもう必要ねえだろ」
「どうして…」
「お前はここでいられても俺はここにはいられねえんだよ」
ドリフトに対して声を荒げることなどもうないと思い込んでいた。 だが、 それは間違いであると今更ながら気がつく。
「お前は剣に選ばれたからここでも生きていける」
「剣が総てじゃないってダイアトラス様はおっしゃったし、 誰も気にしてない。 それに剣なんて、 此処以外じゃ旧時代の武器だ」
ドリフトの意見は全うなものであるとわかる。 そして、 ドリフトが何か勘違いをしていることもわかった。
「ドリフト、 そうじゃねえよ」
じゃあどういうことなんだと、 そう言いたげなドリフトに一つ排気をしてデッドロックは言った。
「俺は、 まだガスケットを殺したオートボットが許せない」
「誰かを殺して、 誰かにかなしみを与えて言いわけないだろ」
「だけどそれでも許せねえんだよ! わかってる、 それが間違いだって事くらい…、! わかってるけど… 仕方なかったんだって、誰のせいでもないって、 じゃあ俺はどうしたらいい? 俺は、 ここには居られない、 優しくされるってわかってるからここにはいられない。 俺にその価値はない」
「… 価値云々を決めるのはデッドロックじゃない」
だが、 デッドロックの意思は堅固なものであった。
「もう誰がとめても、 俺は行く」
「ウィングには言った方がいい」
「いうな、 あいつにだけは知られたくない」
ドリフトが何かを言う前に、 デッドロックは変形した。 轟音をとどろかせれば、 その後ろにはなにも聞こえてこなかった。
「じゃあなんで俺には言ったんだよ…」
デッドロックの背を見送って、 ドリフトは呟いた。 だがその声はデッドロックには聞えない。
デッドロックが出て行ったその日…… なんだかドリフトの様子が可笑しいと、 ウィングは気がついていた。 そして、 今日は一日中デッドロックの姿を見ていない。
「ドリフト」
「…… ん?」
「デッドロックはどこにいる?」
「…………」
ドリフトは、 言いよどんで口を硬く閉ざした。 長い付き合いである。 流石に隠し事をしている仕草には気がつく。
「ドリフト」
少し語尾を強めるも、 ドリフトは言う様子がない。 なんだか胸騒ぎがすると、 ウィングはドリフトを説得しにかかる。 一見素直そうなドリフトだが、 根本はデッドロックに負けず劣らずの頑固で意固地者なところもあった。
「今すごく嫌な予感がしているんだけど、 俺の嫌な予感は外れているのかな?」
ドリフトはだんまりを決め込んでいる。
「まさかと思うけれど、 ディセプティコンの仲間になりに行ったなんて事はないね?」
その瞬間に、 ドリフトがきゅるりと視覚器を絞ったのをウィングは見逃さなかった。
「…… 愚かな子」
「だ、だめだ デッドロックは、 誰かを殺すそんな姿ウィングに見られたくないって」
「俺にみせられないような姿をするんだったらなおさらとめない手段はない」
「ウィングだめだって、 ウィング!!」
日は天高くに上っていた。
「間違った道にすすもうとしているんだから止めないといけないに決まっているだろう」
ウィングはとばしにとばした。己の銀翼は太陽を反射し、 それはそれは美しいまでの速さでとんだ。 デッドロックの悲しみはわからない。 なぜなら、 自分はデッドロックではないし、 デッドロックのような経験もしていないからだ。 だが、 こんな風に逃げるように立ち去るのは間違いだと、そう感じていた。
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