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ドリフトとて、 当初はきゃぴきゃぴした恋愛にうつつを抜かしていた。 それこそ、 一言しゃべるたびに、 拍が可笑しくなったり、 変なところはないかとか気にしてみたりしていた。
しかし、 ラチェットの反応はいつもかわらなかった。 そのことに、 徐々に気がつき、 だんだんきゃぴきゃぴしなくなった。 今ではもう常套句に程近いほどの会話も行う。
そして、 話す機会が増えればそれだけ親しくもなる。 徐々に、 ぶっこんだ会話もするようになってきているのだから、 そろそろ感づいてくれてもいいのではなかろうかとドリフトは排気した。
大体、 気になる誰かはいるのか?と聞いた時点で悟れと、 少しだけ苛立つ。 興味ない相手に聞くような奴が居るわけがないのだから。 何をどうすればこの意味のわからない片思いから開放されるのかは充分に理解していたが、 ここまで食い下がって最後の最後に好きだとはいえない。 ドリフトにだってプライドの一つや二つはある。
では、 プライドだけの問題なのかと言われれば、そういうわけではないとドリフトは否定するだろう。 ラチェットが、 何を思っているのか全くわからないのだ。 表情に出なさ過ぎて、 もしここで好きだといって「お前にそんな感情を抱いたことはない」等といわれてしまったらドリフトはまちがいなく立ち直ることができないであろう。 臆病者で頑固者な自分の性が恨めしいも拒否されてしまったときの事を考えると、 このままの距離が一番良いのではないだろうかとさえ思う。
「拒否されることなんてあるか?」
「わからないから、 怖すぎて」
「…… ないとおもうけど」
橙色の機体はちゅうと、嗜好品をすすった。 その子供っぽい仕草がかわいいなあと思いながら、 ごくりとドリフトは嗜好品を飲み込む。
「…… 心はよめないから怖いんだよ」
「うーん… ラチェットの心はなんとなくわかるけど」
「ロディ、 本気でいってる?」
ロディ… ロディマスという名の橙色の機体はこくりと頷く。 その様にうらやましくなるも、 ロディマスはロディマスで別の悩みを抱えていると知っているために、 やはり自分に関係する物事というのは第三者から見ないと判別できないものであることを痛感した。 なぜ、 自分に関係のない物事のほうが、 上手くみぬけるのだろうかと疑問があふれてとまらなくなる。 関係ないものが最善を導き出せ、 関係あるものは最善にたどり着けない。
「年寄りってのは狸だな」
「…… 怒られるよ」
「いま喧嘩してるから聞えるくらいの悪口が一番だし」
ドリフトがはあと排気をつき、 ぽつんと呟いた。
「もうなんていうか、 出会うのが遅すぎないか?」
そんなドリフトの言葉に、 ロディマスが同調する。
「ほんとそれな。 どうせ出会わせてくれるならもっと早い段階に出会いたかったよな」
「そしたらこんなにこじれる前の俺でいられたんだけど」
「でなかったら出会いからやりなおしたい」
だが、 誰かとの出会いもつながりもなにがどうなるかなんてわかったものではない。 いつまで言っていてもしょうがないと、 ロディマスは立ち上がって言った。
「よっしゃ仲直りしてくる!」
「いってらっしゃい」
意気揚々と部屋を出て行ったロディマスに、 どちらも大概素直ではないなと苦笑いが零れた。
素直でないのは己も一緒なのであるが、 この際自分の事は棚に上げておく。 自分の空けた杯を見て、 少々飲みすぎただろうかと一つ伸びをした。 ふわふわと居心地のよい気分になって、 寝具へと飛び乗った。 とたんに、 睡魔に襲われる。
寝酒は夢見が悪くなると、 そう思ったがどうにも逆らえずそのままドリフトは眠ってしまっていた。
―――――
真っ暗の世界にドリフトは一人思った。 ああこれはおそらく夢である、 と。 どうにかさめなければと思うも、 その心に反して目は覚められない。
真っ暗の中をひたすら歩く夢の中のドリフトはぼんやりと、 在りし日の姿を見た。 自分の本当の生まれではないが、 故郷と呼べるであろう清純の地。 だが、 その地は荒廃しきっており、 何も誰もいなかった。
やめてくれと、 切に願った。
戦争の被害か、 影響か、 ドリフトの愛したその地は既に姿かたちを変えていた。 それは、 夢の中でのことだけではなかった。
現実の話であった。
皆はどこにいったのか、 何をしているのか。 突如、 目の前を歩く己と似た機体に目をやった。
「デッドロック!!!」
そう叫んだとたんに世界が崩れ、 そして夢からさめた。
排気が荒くなり、 指先が震える。 一つ身震いして、 己の機体を抱きしめるが一向に落ち着けなかった。 何時の間にやらぽたぽたと雫が零れ落ちて止まらなくなる。
遥か清純の地。 愛すべき故郷。 その故郷は、 戦争の終結に伴い訪れたドリフトを迎えてはくれなかった。 その場所は全くもって変わってしまっていたのだ。 建物は崩壊し、 自らが暮らした家さえもなくなり、 そして誰もいなかった。 ウィングさえも行方がわからなかった。
だが、 ウィングの存在は以外にも見つかった。 休戦協定指定区域内のとある病院にいる、と。
ウィングの存在を探すのを手伝ってくれたのもまた、 ラチェットであった。 あらゆる星にある病院と、 膨大な数の負傷者、 入院者の中から生きているのかもわからないたった一機を探すのに、 どれほどの時間を費やしてくれたのだろうか。 そして、 ラチェットの示してくれたその相手はウィングに相違なかった。
おとずれたその先では、 圧倒的にオートボットの者達が多かった。 それもそうだろう、そこの医師は皆オートボットの者達であるのだから。
一番奥のその場所に、 ウィングは静かに眠っていた。 聞いたところでは、 救難信号を受けて
行った先で、 発見されたらしい。 誰か訪れたかと問えば、 あなたとよく似たディセプティコンがたびたび訪れると聞いた。 即座に、それがデッドロックであると悟り、 安堵した。 それと同時に、 不安が脳裏をよぎる。 ディセプティコンに属しているデッドロックは敗戦者の身であるからだ。
「…… デッドロックが来たんだね、 よかった」
何もいわずに只眠っているウィングに、 ドリフトはそう告げた。
明確に生死がわかっているのはその二人だけである。 他の者のことはまるきりわからない。
しんと静まり返ったドリフトの部屋は、 その静寂さを彷彿とさせた。 ここにいたくない。 寝静まり返った艦内をかつかつと一人で歩きまわる。 どこに言っても話し声一つ聞えてこないが、 ふと、 ラチェットならばおこしてもいいのではないかと思った。
明かりは消え去っていたため幾度かためらったが、 結局孤独には勝てず控えめながらこんこんと戸を叩く。
「ラチェットいる?」
ぱちんと、 部屋に明かりが灯った。
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