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もうやめたい機体はどれほどいるのだろうとウィングは考えた。誰かを傷つけたくない機体はどのくらいいるのか。最早安寧などありはしないのかもしれない。
宇宙空間にでて暫くしたころ、漸く宇宙船が安定してくる。これなら飛べるかもしれないと、ウィングは手紙の外側に書かれた座標らしいものを設定する。
紙を使うなど、よほどのことがあるのだろうと、ウィングは改めて思う。これは個人から個人への密書だ。
全てをウィングに託された気がして、もう一度胸に誓う。
「必ず届ける」
明るい光が舞って宇宙船は光の渦の中に飛び込んでいった。ウィングが次に目を開けたとき、そこには小さな星があった。 その星は緑が生い茂っているわけでも資源が多くあるようにも見えない。 ただ一つ言えるのは、この星には何らかの文明があったというだけである。それを根拠付けるように、一面に石造りの廃屋が立ち並んでいた。なるべく静かに星に降り立ち、手紙をしまいなおす。この星で一番強いものに手紙を渡してくれと言われたが、まだこの星に住んでいるものがいるとは思えなかった。 周辺を探索しても生命反応はなにもない。一体どういうわけだろうかとウィングは首を傾げた。
「う、…、うぅぐ…」
ウィングの耳に届いたのは、間違いなくうめき声だった。急いでその方向に走りだし、その瞬間に辺りに殺気が満ちていくのがわかった。なにかがおかしいと思うものの、もしかしたら手遅れかもしれないと足を急がせた。 ずっと走っていったその先に、その声の主はいた。
「どうした?!」
「…、あ、…、奴が、来る、」
「奴?」
つまりこの機体は囮だと、ウィングは辺りを見回した。まったく酷いことをすると、ウィングが排気した。 その瞬間に、銃声がした。
「あ、ぶな、っ!」
背負った刀を抜いて構える。 四人か、三人かの視線が向けられているのは理解できるが敵意を向けられているの理由がわからなかった。 更にいえば、下手に動くと囮にされている機体に当たる。 一方的な攻撃はあまりにも容赦がない。 その隙間を縫うようにすさまじい速さで、切りかかる暗赤色の機体があった。
「お前、誰だ」
「何?」
互いに互いを把握できていない事に、更に違和感を覚える。更にいうならば、ウィングがこの囮の機体となんの関わりもないことは何よりも目の前の機体の方が理解している用だった。
「あの野郎の仲間か」
ぎちぎちと、刃同士が擦れ合う音がする。 派手な音を立てつつ振り払ったのは、暗赤色の機体のほ方だった。
「太刀筋悪くねえな」
「それはどうも…!」
後ろに跳ね除ければ即座に銃撃が始まる。
「何でもいい、とにかく俺はあいつを殺さなくちゃなんねぇんだ!!」
「そのあいつが誰か俺は知らないんだ!」
「ふぅん、白切るってわけか…、!」
これ以上下がれば、囮の機体に当たってしまうとウィングの退路は立たれた。だが、そんなのにかまうことはないと、暗赤色の機体は切りかかる。 その時、さらにもう一体の気配を感じた。 だが、防ぎようがない。 囮になっている機体を殺すこともできない。総てに気をとられて切りかかられた刃への反応が遅れた。ここで死ぬわけにはいかないのだけれど、と己の死を見据えた時だった。
「あんた何してんだよ」
がしゃんと弾かれた剣先に、 ウィングが視覚器を呆然と明滅させた。
「何してたっていいけど、ぼんやりしてると死ぬぜ?」
「デ、デッドロック」
ぐいと、 上腕部をつかまれて立たせられる。 事態が飲み込めていないウィングにデッドロックは辺りを見回しながら言った。 自身を襲っていた機体はいつのまにか廃屋の中に隠れていた。 そうしている間にもデッドロックはウィングの守っていた機体の胸部を打ち抜いていた。 目まぐるしく変化する状況に、ウィングはただただ驚愕をもってデッドロックを見ていた。
「罠に嵌めたつもりが嵌まっちまった、 こっちの居場所がバレた。今一人やったから、相手は四人だ」
「ちょ、 ちょっと」
「ウィング、 自分の身は自分で守れ」
そう言った瞬間、 弾丸が飛んでウィングの頬を掠めた。
「死ぬなよ」
デッドロックが、 その時に初めてウィングを見た。 事態は飲み込めていないが、 ひとつだけ言えることは今、 自分達が死に直面していることだけだった。
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