殺したいと思う相手はいたけれど、その相手を殺せるかどうかは全く別の問題である。普通の考え方をしていれば、殺せないのだがロディマスはそんな風に思っていなかった。 殺せるものなら今すぐに殺してしまいたかった。しかし、 現状はそうはいかない。
取り払われた己の足が無残な姿に形を変えていくのを、ロディマスはただ黙ってみていた。足だったものが破片に変わってばらばらと落ちていくのを見ているしかなかった。
「…、楽しいか?」
「そこそこかな」
「かわいそうな奴」
心底放った言葉にオーバーロードがくすくす笑って、ロディマスを見る。その子供のような笑い方はやめろと幾度言ったかわからないが、オーバーロードにはやめる気はないのだろう。さて、その脚をどうするつもりなのだろうかと、ロディマスが思案に暮れる。 脚がないのでどうしようもなく、その様を見ていると、少し待っててとオーバーロードが言った。誰もおまえなんて待っていないと言いたくとも、言ったところでどうに成るわけでないので口を閉ざす。
オーバーロードが戻ってくると手に機械を持っていた。そして砕いた破片を一つ一つつなげていく。
「これはどの部分だと思う?」
「…、、しるかよ」
「ふむ…、私の考えでは恐らく脚の裏だと思ってるよ」
「うるさい」
パズルのように嬉々として、破片から脚を作り上げていく様に吐き気がした。一度壊したものをまたつなぎ合わせるなんて無駄なことをオーバーロードは楽しそうにやり続けている。
「これはどこの線だと思う?」
「知らない」
少し迷いながら、オーバーロードは様々に形を作っていく。 そんなどうでもいいことを延々くり返しているその姿にロディマスはため息をついて言う。
「何がしたいんだ」
「ロディがちゃんと歩けるようにしたいんだよ」
「お前がもがなきゃちゃんと歩ける」
当たり前のことをいまさら言われて苛立つ。
そうして、 狂った修繕活動が行われ、 ロディマスは自分の足が見た目は元通りになっていることに、 疑問を感じた。
「つけてあげよう」
「はあ?」
「治してあげるといっているんだ」
見たところ、 この脚になんの細工も施されていないようだった。 だが、 果してオーバーロードが手放しにこんなことをするだろうか。
ロディマスの付け根からもがれた脚が、 装着されると一見なんの違和感も感じなかった。
「…、 何がしたかったんだよ」
「いずれ解るよ」
その言葉をロディマスは身を持って体験することになる。
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何の違和感もなかった脚が痛む。 その事に、 ロディマスは疑問を感じていた。 今までこんなことがあっただろうか。
脚を気にして、 下を見るが何も可笑しいところはなかった。
航行する船が、 どこに行っているかはわからない。 ただ座っているのはいやだった。 幸いにも、オーバーロードはロディマスが艦の外にでようとさえしなければ、 大して問題視はしない。 今日も扉はあかないのだろうな。 そう思いながら、 ロディマスが扉を強く蹴り飛ばしたときだった。
「ぅあっ!?、ぐ、ぅ…!」
あまりの痛みに立っていられなくなり、 床に跪いた。 まるで締め付けられるような痛みに排気が荒くなる。 その背に、 そっとオーバーロードが触れた。
「大丈夫?」
白々しく告げられた言葉に苛立つ。
「何、 しやがったてめえ…、!」
ロディマスが、 そういえばオーバーロードは至って普通に答えた。
「気をつけて、 歩けなくなるよ」
「んな事は聞いてねえ、 俺の…、 俺の脚になにした…!」
きっと、 床に跪く自分は無様なのだろうな…、 と思うが、 それぐらい客観的に見なければ醜態を晒し続けるだろう。 気丈さを保ちたいと思うも、 脚の痛みがじわりと精神を冒していく。
「痛い?」
「答えろよ…!」
オーバーロードが笑いながら、 ロディマスを無理やり立たせる。 脚が、 床に触れ、 そのたびに激痛にあえぐ。
「これでもうどこにもいけないね」
笑ったオーバーロードは、 残酷だった。
「や、やめろ、いやだっ、や、ああ!、ひっぐ…!」
ロディマスの静止を無視したオーバーロードは、ロディマスを抱え上げて無理やり歩かせながら言う。
「ロディの好きなようにさせたいのも山々だけれどね? それだと、 私も困るのだよ」
「やっ、あ゛!、ひぐ、っ う…、 っ…、 !!」
「少々、 面倒な者が周回している区間にはいる。 それさえ終えれば、 脚は元に戻してあげてもいいけれど…、 … きいてる?」
雫で視界が歪んで仕方がない。 内部からの苦痛は今まで感じたものより異なっていて、 機体が震える。 もう、 どうだっていいと思った。 なんだっていい、 この痛みから早く解放してくれ。
「きいている?」
オーバーロードが抱き上げたことによって、 直接的な痛みからは解放されるが、余韻が残る。これ以上醜態を晒したくないと思うが、 雫は止まらない。
「なんていった?」
オーバーロードが何か喋っていたのは知っていたのだが、 それが何を言っているのか解らなかった。 目下の苦痛をどうにかしようと処理するのが精一杯だった。 わからないと答えようとしても、 嗚咽しか漏れてこない。
「わからない?」
オーバーロードの問いかけは正当だろうとなんだろうと、 行われる事に変化はない。 オーバーロードの手が、 ロディマスの脚に触れて、 撫でる。 その刺激になくなった苦痛がまたよみがえった。
「い、ああ! さわんな、さわるなあ!」
「言った事が思い出せるまで脚を撫でてあげよう。」
「やだ、 やめて、やだやだ、 あああああ!!」
悲鳴は艦内にこだまする。
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はたして 己の痛みととある姫君の痛みのどちらが勝るのだろうか。 ぼんやりと、 脚を見つめてロディマスは思いはせた。
その姫は、 歩くたびにナイフでえぐられるように脚が痛むという。 その姫は誰にも知られず泡沫になって、 空に昇るという。
死ねるのなら死ねる分いいじゃないか。
そんなことを考えながら、 ロディマスはぼんやりと脚を動かし、 そして、 苦痛にうめいて辞めた。
「いてえな」
その声を拾う者はいない。 いないからこそ言ったのだ。 まあどうでもいいかもしれないと、 ロディマスは己の脚を見て思う。 暫くおとなしく椅子に座っていれば、 痛みが引いてきた。 同時に立ち上がり、 また入り口の前まで歩いていく。 再び脚が痛み出した。
扉を押して、 扉を引くも全く動かない。 やっぱりだめか、 とずるずると床に座りこんだ。立っているのはもう痛くてできない。 おそらく、 扉が相手も数歩で限界だろう。
どす黒い問いが脳裏に浮かんできた。 ぐちゃりぐちゃりと正常な思考は埋め尽くされ、 呪いの様に問いが広まる。
誰の為に耐える? どうせ、 もうみんな忘れているのではないか?
「殺してやる」
もう疲れた。 どうでもいいとさえ思った。 オーバーロードが何をしたいかなどどうでも良くなった。 どうせ、 ここからは出られないのだ。 もう死んでしまおう。
ロディマスは意気揚々とした。 なんだか至極、 気分がいい。
オーバーロードを殺して自分も死ぬ。 そうしたら、 こんなにいいことはないと思う。 心中よりもタチが悪いが、 別に構わない。 この悪しき状態から開放されるなら何だってかまわない。
ただ一つ心残りだとするならば、 やはりウルトラマグナスの事だろうか。
せめて、 マグナスには一言伝えておくべきだろうとロディマスは手紙を書きだすだが どうせ、 オーバーロードを殺したあとに、 自分が死ぬのだからいつでも送れるか、 と思いなおし手紙を、 捨てる。
完璧な計画だとさえ思えた。 失敗の余地はあるはずもない。 寝ているオーバーロードの胸に一発ぐさりとつきさして、 それで終わりになる。
その頭で、 酒を飲むのもいいかもしれないな、 などと思いながら、 ロディマスはそのための準備しようと、 腕の装甲の一部をはずす。 さて、 いつがいいだろうか。 我慢できない。
今日は精一杯、 啼いてやろう。 せめての手向けだ。今日行おうと決心した。
鈍く光る鋭利な刃を見つめて、 ロディマスはにこりと笑った。
だが、 なぜか。
オーバーロードはその日、 ロディマスを暴く事はしなかった。 それに苛立ちが募る。 いまさらどういう了見なのかとさえ思った。
今日お前を殺してしまうのに。
そういえば、 入念に計画することなんて今までなかったなと思う。 いつも行き当たりばったりであったし、 まあなにかと臨機応変に対応していたからなと、 正当化する。
もし、 ウルトラマグナスがここにいたら、 きっとこの対応の仕方になんやかんやとけちをつけるだろうと思い、 ロディマスは笑みを零した。
オーバーロードは、 なぜかロディマスと空間を許容したがる。 常ならば、 うざったいとさえ思うが、 今はそれがとてもありがたい。 ああ、ころしたい。
ベッドで脚を抱えて丸くなるロディマスを、 傍目にオーバーロードは言った。
「おやすみ」
お前に明日は来ないぞ。 そういいたい気持ちを我慢して、 ロディマスは眼を瞑った。 直に、 生暖かい循環油がベッドに滴り、 俺はその中で一人笑う。 そうして朝を迎えるのだと、 夢を描いた。
静まり返った部屋で、 ロディマスはのそのそと起き上がった。 そして、 オーバーロードを見つめる。
馬鹿な奴。 と心の中で呟く。
さて、 どのくらいの力がいるだろうか。 やはりその装甲はとても力強いのだろうか。
そろりとベッドの脇に座り、 刃を取り出す。
声に出さずに、 別れを告げ 振り上げた瞬間だった。
「それでは私を殺せないよ」
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鳳櫻月雨