ロディマスは、窓の外を見ていた。雨が降り続いている。

「まさか、あんな事が起こるなんてね」

オーバーロードはくす、と笑みをこぼしながら、話をする。
オーバーロードによる襲撃があったあの日、クロームドームのしかけた細工が作動した時、真っ先にオーバーロードのとった行動は逃走だった。
オーバーロードはロストライトから夢中で逃げ出したのだ。
オーバーロードの逃走は、結果的にロストライトのクルーを救ったが、同時に一つの問題を生み出した。
オーバーロードはあろう事か、傍らにいたロディマスを連れて行ったのだ。当然、ロディマスは抵抗した。他のクルーの者も必死に取り返そうとした。
しかし、恐慌状態に陥ったオーバーロードを止める術はなく。
そして今、ロディマスはオーバーロードに監禁されていた。
だが、ロディマスは別に自分の身のことなどあまり気にしなかった。ロストライトのクルーの無事がわかっていたから。
逆に言えばそれしか救いはなかったのだ。ロディマスがこの場から、オーバーロードから逃げ出せる可能性は零に等しかった。

「君の台詞がどうしても頭から離れなくてね。私にとって、その言葉は畏怖と崇拝の…」

「………… 拷問でもしにきたか?」

ロディマスはオーバーロードの言葉を遮って言った。

「悪いが、俺は何も言わないぜ」

そう言うと、視線を下へと向けた。
ロディマスの思考を支配していたのは、オーバーロードではなかった。
ドリフトとラチェットは無事だろうか。彼らの安否が気にかかっていた。
パイプスの葬儀は執り行われただろうか。彼の死を偲んでいた。
クロームドームは自分を責めていないだろうか。この結果になったのは彼の責任ではない。
そして…… ウルトラマグナスは生きているだろうか。最後に見たのは彼がオーバーロードに……
ロディマスは彼らのことばかり考えていた。
自分の判断で危険な目に遭わせてしまった、彼らのことばかりを。
オーバーロードは、ロディマスに問う。

「拷問されたいのかな?」

ロディマスは、オーバーロードに答う。

「好きにしろ」

オーバーロードが言った。

「そうして欲しいならそうするけど。

なぜなら私は君を愛しているからね」

「…… あんた、今、…?」

ロディマスは驚愕し、オーバーロードをただ見つめた。
オーバーロードが言った言葉を反芻しようとする。
その前にオーバーロードが再び言った。

「愛しているといったんだよ、ロディマス」

「っ…!! 冗談も大概にしろ!!」

「おや、私は冗談なんか言わないけれど?」

オーバーロードがそっとロディマスの頬に触れた。
その仕草はとても繊細だった。
しかし、それに反比例してロディマスはぞわりと背筋を震わせた。
そんなロディマスを知ってか知らずかオーバーロードは続けた。

「君のその瞳はとてもきれいな青色をしている。その瞳に私を映してもらえないかと思ってるんだけど?」

オーバーロードの指から逃れることはかなわずとも、ロディマスはわざと視線を向けずに言い放った。

「断る。あんたなんかをどうして俺が見なきゃならない」

「まあ、それもそうだよね。だって君にはウルトラマグナスがいるからね」

その言葉に、ロディマスが止まった。
思わず、オーバーロードに言った。

「…… なんで、あんた、知ってるんだ……?」

微笑みながらオーバーロードは答えた。

「好きな相手のことくらい、私でも調べるよ?」

その言葉に、ロディマスははっと気が付き、叫喚した。

「俺の記憶を勝手に見るな!!」

しかし、オーバーロードはつゆほども動じずにからかう様に話し続けた。

「ずいぶん長い片思いだったみたいだね。ずっと恋焦がれていたんだね。そんなに思われているなんて彼がうらやましい」

「…… うるさい」

「ずいぶんと初々しい恋愛だったみたいだね。とても私には考えがつかない」

「… 黙れ」

「つたない恋だ本当に。少々、馬鹿げているけれど」

「黙れ! 黙れよ!!!」

ロディマスはあらん限りの気迫を持ってしてオーバーロードを睨み付け、激高する。

「あんたにどうこう言われる筋合いはない!! その口を塞げ! この−−−ッ!?」

その言葉をすべて言い切ることはかなわなかった。
その行為をオーバーロードの手が妨げたのだ。
ぎりぎりとロディマスの首を絞めながら、オーバーロードは沈着に述べる。

「今、君を支配しているのは私だよ、ロディマス。ここは、ロストライトではない」

「−っさ−、あッ がぁ…!」

排気のままならないロディマスなど関せず、オーバーロードはさらに腕に力を込める。

「きちんと自分の置かれた立場を考えた方がいい。今の行動は得策でないと理解はしているはずだから」

排気のできない苦しさに、ロディマスの視覚器からぽろりと冷却水が流れた。
それを合図としてか、オーバーロードの手が離れた。
詰まっていた排気が一気に解放される、その感覚に、機体がついて行かず、ロディマスは咳き込んだ。
そんな、ロディマスの背を優しくさすりながら、オーバーロードは言う。

「さあロディマス、私に何か謝罪をした方が良い。君はとても小さくて細くて可愛らしいから傷つけたくないからね」

咳き込み、排気を荒げながら、ロディマスは問うた。

「っ… あん、っ、た、に、 何を」

「先程の君の非礼を、私に詫びるべきだと思うのだけれど」

オーバーロードは何を言っているというのかロディマスには理解できなかった。
己が詫びるなど、そんな訳がない。
背をさする手を振り払って

「馬鹿言うな」

オーバーロードは振り払われた手を見て…… そして笑った。

「なら、教えてあげよう」

オーバーロードは部屋を出て行った。
きっとなにか道具をとりにいったのだろう、とロディマスは思う。
それは、予想の範囲内だ。
どんな事だって受け入れるつもりだった。
むしろ、今まで五体満足でいたことの方がおかしい。
四肢がなくなるくらいの事はされるはずだと思っていた。
何度か排気を繰り返した。ロディマスは確固たる意志に燃えていた。
奇妙な静寂が続く。

「お待たせ、ロディマス。少し手間取ってしまったよ」

少しして、かえってきたオーバーロードだったが、その手に痛めつけるための道具は見当たらない。
てっきり痛めつけられると思っていただけにロディマスは怪訝な顔をする。
その顔を見てか、オーバーロードが言う。

「君の身体を痛めつけるものは何ももっていないよ」

「…………」

「ロディマス、私は君が好きだと言ったはずだけど?」

オーバーロードはロディマスの目の前に、何かの液体を差し出した。
どこかで見たことがあった。
ロディマスは記憶を探る。
あれは確か…

「これを飲みなさい」

聴いたことのある台詞だった。
いつの、何の、記憶だったか。
オーバーロードは続けた。

「君を傷つけたくないから」
「君を愛しているんだ、だから…」
「そしたら君はこういった。
そんなのいらない、…… マグナス」

オーバーロードの言葉のすべてを聴いたロディマスは

「アァアアァアアァアアアアァアアァァアァァアーーーーーッッ!!!」

絶叫した。

鳳櫻月雨