翌日目覚めたロディマスは、そろりと脚を床に下ろした。昨日酷使した脚は、痛むことはなかったが不安は残る。洗浄もそこそこに、街への道を急いだ。昨日の訪れた家へ行くと、医者は患者を診ていた所だった。頭巾を目深くかぶってやり過ごす。じろじろとした視線を感じたが、その視線を振り払って言った。
「俺の脚は何時見てもらえるんだ」
「あなたが酒場で何杯か飲んでいるうちになおるでしょうね」
「はあ 気のせいじゃないってば」
不貞腐れて背を向けたが、医者が言ったように酒場へ行こうとしていたのは事実なのでありがたい。むしろそう仕向けてくれたことに感謝した。
「ヤブ医者め」
「おや」
吐き捨てて家から出ようとしたとたん、がつんと頭に何かがあたった。油断していたため、結構な衝撃に感じる。実際結構な衝撃であったのだが、驚いて振り向けば医者は満面の笑みを浮かべて言った。
「聞き捨てなりませんねぇ?」
「わ、悪かったって…」
笑みに気圧されて、謝罪を述べる。寝台に横たわる患者は、苦笑を浮かべていてどうやらこの医者は、只の医者ではないらしい。また一つ、この医者の謎が増えていくが、それより医者の笑顔が怖い。己は言ってはならない事を言ってしまったらしい。このままでは医者によって怪我をしかねないと、ロディマスは早急に家を出た。
なんだか、一気に疲れたように感じる。あの医者は全く何者なのだろうか。医者に対する謎が深まるばかりであったし、そんな相手でも信用するしかないと言うのはつらい。向こうがどれだけ己の事について知っているのかもわからない。
ロディマスが、酒場のドアを開けるとがやがやとした喧騒があった。少し探せば金属生命体らしきものもいる。ちらりと壁に目をくれると、自身の顔がのった貼紙が見えた。ばれたまずいなと出口を確認してからカウンターに座る。背中に羽の生えたバーテンダーにらっしゃいと声をかけられ、注文はと聞かれる。適当に返事を返せば、現れたのは新緑の酒だった。
「なあ、ここはどういった星なんだ?」
「さあ? ただのしがない田舎の星ですな」
「ここに来る途中に海を見たんだ。あの海は?」
「あれは海じゃねえですよ。湖だ。近々雹星祭があるんでね、もっと人は増えるでしょうなあ。あんた、あんまりあの湖に近寄っちゃなんねえぞ」
バーテンダーが差し出した紙を受け取って読めば、どうやら、百年に一度の祭りらしい。大勢が集まってにぎやかにすごすのだろう。比較的、小さな街だがこのときばかりは熱気と歓喜に包まれると言うことか。それより、気になることがあった。
「…… なんで湖に近寄っちゃだめなんだ?」
「雹星祭のときは、湖にちかよっちゃなんねえ端からの決まりなんだ。降って来た星の墓場だからな。」
なら、あの近くにおいてある、艦は誰も触らないから安全と言うことか、と考えながらロディマスが新緑をすすると、みずみずしい甘さが舌に広がった。バーテンダーの話を聞きながら、流れっぱなしのモニターに移るニュースを見る。星間放送のニュース番組だし、大分脚色はされているだろう。だが、なにもないよりかはマシだ。一方ではバーテンダーに話を聞く。
「金属生命体について、なにか噂はないか?」
「噂なら星の数ほどありますぜ。きゃつらの粗暴には、どこの星も飽き飽きしてるし、なるべく係わり合いは持ちたくないってのがあるから、尾ひれがついて泳ぎ回っていますがね。」
「… あんたはどう思ってるんだ」
「俺なんかに聞いてもどうにもなるまいよ。よその星が滅ぼうが、なにしようがなんだってかまわない。今のことが一番大事だ。」
ロディマスが、モニターに目をやるとちょうど金属生命体のニュースが始まる所であった。以前は己もあの場所に立っていたのかと思うと、近しくもはるかに遠いような感じがした。
酒場の喧騒がうるさくて、音が聞こえないため視認でのみ情報を読み取っていく。見出しに現れたのは『戦犯メガトロンがロストライトに同乗している』そのニュースはロディマスの目を奪ったが、それよりも。
「…… 生きてたんだなあ、マグナス」
ちらりと移った青い機体。あれは間違いなくウルトラマグナスの機体だった。
「良かった。」
メガトロンが、どういった経緯でロストライトに乗ることになったかはわからないが、ウルトラマグナスの生死が分かっただけでも良かったと思う。画面が移り変われば、ウルトラマグナスが生真面目そうに立っている姿に変わってないなと、笑みを漏らし、バーテンダーに向き直って尋ねる。
「最近ここいらで青い機体の話は聞いてないか?」
「さあ? あんまり気にしたこともないしなあ」
「そうか、…」
「恋人様かい? まああんまり、この星に金属体は来ないから、目に付いたら直ぐにわかるはずだしな。みかけたら教えてやるよ」
「恋人じゃないけど、よろしくな。」
ふと、モニターに視線をやると、そこには己の顔が大々的に流れていた。思わず目線をそらしたが、どのような内容が書かれているのか伺う。内容は昨日みた内容と変わらずであったが、不服なのは其処ではなく。まるで、極悪犯罪人のような扱いであることに異論を隠せなかった。この報道の内容では、再び内戦を起こそうとしているような扱いだ。こんな脚で、そんな大業がなせるかと苛立ちを感じた。
酒場を後にして、再び医者のもとに向かった。辺りは少しづつ暗くなりつつあるし、もう少し暗くなったら、外着をとって出歩いても大丈夫だろう。こんこん、と扉を二度ほどノックすると扉が開いて、医者が顔をのぞかせた。
「ヤブ医者になんの御用ですかな?」
「… 意外と根に持ってるな、あんた…」
「この私をヤブ医者呼ばわりする若造は、あなたが初めてですから」
「… わるかったよ、つい、その場の雰囲気でさ」
どうにか医者の機嫌を直し、今日はもう帰ると伝える。医者が何かの薬をロディマスの脚に打つと、すうっと脚の痛みが消えた。
「一時しのぎでもうしわけないのですが、それだけしかなくて」
今日の収穫で一番大きいのは、ウルトラマグナスの生死がはっきりした事だろうか。明日も、なにかいい情報が得られれば、と、ロディマスはベッドに横たわって毛布を抱きしめた。やはり、オーバーロードは帰ってこなかった。 それから、幾日が過ぎただろうか。通いつめれば最初はあまり込み入った話をしてくれなかったバーテンダーも、少しだけ話をしてくれるようになったし、遠巻きに見ていた客とも話が出来るようになった。あいかわらず、外着ははずせないが、それでも楽しかった。噂を含めた真偽不明話から、確証がもてるような話までいろいろな話を聞いた。それでも、オーバーロードに繋がる話は全く上がらなかった。そして、また数日が過ぎた。
その日も、ロディマスは医者のもとを訪れて挨拶をしようとした。すると、目の前にはいつしかみたあの患者が立っていた。
「ロディマスだな」
目の前の機体は胸にオートボットのマークをつけている。慌てて視線だけで、室内をさぐると荒らされた形跡だけは見えたが、肝心の医者本人が見あたらない。外着の中で、手探りに医者からもらったレーザーガンに手を伸ばす。迫りつつある暗闇と、外着のおかげでその動きを気取られることは無かったが、ロディマスにはもっと考えなくてはいけない問題があった。
「…… 俺が、ロディマスだったら、あんたはどうするんだ?」
「そうだな、懸賞金でもいただくとするか。この、裏切り者め」
「そうじゃない、話を聞け。頼むから。」
ロディマスは出来うる限りの冷静さを醸しながら、目の前のオートボットに言う。だが、相手はそんな事知らぬと、笑うばかりであった。
「先生は、どうした」
「先生? ああ、あの裏切り者の医者か? さあな、どうせすぐあんたはあの世へ行くことになるんだから知る必要はないだろう?」
「違う、先生は裏切ってない。先生は俺のことを知らなかったんだから、裏切りにはならない」
「知ったことか。」
「頼む、当局には連絡しないでくれ」
「それこそ、無理な話だ」
握ったレーザーガンを、突きつける。
「… 俺の話を聞いてくれ、」
「とうとう、あらわしたな、」
ぞろりと、影から出てきたのは二人の別の機体。どちらも、オートボットのマークを胸に掲げていた。ガンをロディマスに向け、トリガーには指をかけていた。本気で撃つ気なんだな、と冷静に思う。形勢はいつの間にか、ロディマスに分が悪くなっていた。
銃を捨てろと、目線で訴えかけられるも、今これを捨ててしまったらそれこそ、捕まってしまう。そうなったら、せっかく協力してくれた先生も救われない。必死になって、打開策を探した。何か無いか、何か無いだろうか。
突如、ロディマスの真横を光が突き抜けた。ぎゃあ、と叫んで一人が倒れる。ロディマスが何事かと振り向くよりも先に、声が言った。
「早く逃げてロディマス!!振り向くな!!」
はじけて、ロディマスは逃げ出した。頭の中は、ぐるぐると渦がまいていて「逃げるな」とか「戻れ」とか言い続けていたがそれでも走って逃げた。ロディマスは、自分が死ぬことよりも、もっと恐ろしかったのだ。仲間を、オートボットを撃つことが。だが、医者は迷わず撃った。
自分を助けるために罪を犯した。
そのことに気がついた時、走る足が止まった。己は最低だと、気づかされた。変形して、来た道を全速力で戻った。脚の回線経路が、警告音を鳴り響かせていたがかまわず走った。医者の姿が見えた。頭部に突きつけられた銃の引き金が引かれる。ロディマスに迷う時間は残っていなかった。
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鳳櫻月雨