恐らく二度と叶うことはないだろうと、わかってはいたが止められはしなかった。必死で走って走って、そしてたどり着いた。
自力で逃げられたらここからでて良いよと、その希望に縋って嘘か本当かわからないまま走って逃げた。 狭いはずの廊下がやたら長く、遠くに感じられるがそれがなぜかもわからないままただ逃げた。恐らく時間にして数分であっただろうが、扉にたどり着いて開閉キーを押そうとして
「… 今日も私の勝ちだね」
背後から、 抱き締められた。 びくりと、全身が震える。 優しく機体を撫でられた部位から青い衝動が燃え上がり、全身を支配していく。振向くことも、見上げることも出来ずにそのまま、開かない扉を見つめるしかなかった。何故、オーバーロードがいるのだろうかと思う。しっかり確認した筈だった。 だから今しかないと思っていた…
「どう思っているのかはわかっているけれどそれを教えてしまってはつまらないから、もう少し楽しませて?」
「や、やめろ…、やめ、……、あ…あ゛あ゛あ゛!」
恐らく痛みのパルスではないのだろうが、 無理やり送りつけられるそれは最早痛み以外の何者でもない。たとえ其れが、悦のパルスだと仮定したとしてもロディマスには痛みしか感じ取れなかった。 痛い、痛いと訴えようとしても、口を突いて出るのは意味のない言葉と叫びで、 発狂しているようだった。 まるで、魚のようにぱくぱくと口を開いて、叫んで、そして排気を繰り返した。 嫌だ嫌だと訴える脳が、パルスを拒絶して突っぱねているのがどうしようもなく痛みを与えてくるのだが、許容することも出来なければ受容することも出来なかった。
「い、ああああ゛、い、やめ、…!! あ゛゛、い゛、ぐぅっ」
「痛みのパルスではないんだけれど」
「ざけんな、しね…! し、ねぇ!!!」
「おや、慣れてきたね」
機体は順応を始めていた。あまりに大きなパルスでは有るが幾度も繰り返せばそのうちに機体自身が慣れてくるものである。ロディマスの機体は徐々にオーバーロードの与えてくるパルスを、悦のパルスとして認識し始めていた。そうなると、痛みしか感じなかったパルスは強烈な快楽のパルスに変わり、ロディマスの意思に反して無理やり高みへと上らされる。無理やり上らされては、振幅が合わないうちにゆり動かされる。 それはあまりに恐ろしくて、ロディマスは嫌だと叫んだ。
「やだっやだぁああ、やだこわいっ!」
「怖いことなんてないだろう? もう何度も経験しているんだ」
「や、だめ、だめ、落ちる、やだこわい、おちる!!」
落ちていく感覚に、視覚器を閉じて絶えようとすれば、無理やり上昇させられて放り出される。 感覚と認識の違いによって次第にそれが悦のパルスだと肯定する機体に嫌気が差した。
「っ! …、ロディ、。」
「ぐ、っ、…ざまあみろ…っ!」
自分の舌を噛み締めれば、痛みに脳が支配され、悦のパルスを拒絶する。 その痛みは瞬間的にだが、オーバーロードが与えてくる悦のパルスを遥かに上回った。 恐らく至極近くにいるオーバーロードにも痛みを与えたらしい。どろりと循環油が口腔に広がったその味が、生々しいがオーバーロードの拘束からほんの一時的に逃れられたことは、ロディマスにとって嬉しいことであった。 さあ、苛立てとオーバーロードを睨み付けそのまま殺してしまえと死を望んだ。しかし、予想に反してオーバーロードは笑っていた。
「ふふふ、」
「…、なに、がおかしいんだよっ!」
「いや…、 だってね、 」
「な… あ、ぐ、、、!!」
ぎりぎりと頸を押さえつけられて排気が止まる。 その苦しさで暴れるロディマスに面白そうにオーバーロードが言った。
「ロディはきっと酷くされたがりなんだろうと思って」
オーバーロードが、ロディマスを押し倒し顔を覗き込んだ。排気が禁じられたロディマスの抵抗が徐々になくなっていくのに満足して、頸を締める手を退ける。
「げっほ! ごほ、ごほっ…! はっ、はっ はあ!」
必死に排気を繰り返すロディマスに、 オーバーロードは尋ねた。
「ロディが先程の非礼を謝り、私の上でDanceしてくれるなら、許すよ」
「はっ、は… はあ…、 ざ、けんな、誰が…!」
「まあ、そういうとは思っていたけれど、そろそろ私もちゃんとロディをしつける必要があるね」
ロディマスの受容部蓋に触れれば、そこはにじみだした官能油でぬめっていた。
「機体のほうが、まだわかってくれる」
「や、うぁああ、やだっ…! はな、せ、ああ、んうぅ…、」
意思に反して、乱れる機体を呪うことしかできず、ロディマスは今日もその機体を捧げなければならない。くちゅりと響いた受容部の水音にロディマスはぎゅっと目を閉じた。
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「この前、躾をすると言ったとおもったんだけど」
オーバーロードに抱えられたまま、ロディマスは頷くことも声を出すこともしないでぼんやりと言葉を聞き流した。 先程、散々抵抗したが、結局こうなってしまうのだと、暗い廊下を見つめていた。
「どんな躾がいいか、いろいろ考えていてね」
躾。オーバーロードはどうやら今から、ロディマスを躾けるらしい。また、腕をもがれるのか、足がなくなるのか、と思えば恐怖に機体が震えそうになる。 だが、なけなしのプライドのおかげか大げさには震えなかった。そんなロディマスの心境の変化に気づいたのか気がつかないのか、オーバーロードは話を続けていく。
「どんなのがいいかとずっと考えていたよ。何せ、ロディに折檻は通用しないってわかった以上意味はないからね」
「……、 好きにしろよ…、」
最早どうでもいいとすら思えるその言葉に、 今度こそ適当に返事をした。 ロディマスとて、拷問自体初めてではないのだ。過去に幾度か経験がある。もっとも… 内部の配線まで弄られたためしは無いけれど。
抵抗するのはこの後、存分にしようと、今は体力でも温存しておこうと、ロディマスはなるべく動くのをやめた。どうせ、今日とて壊れるほどに声をあげなければならないのだからと自分を納得させ、ただ迫り来る恐怖に耐える。
「ほら、ついたよロディ」
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鳳櫻月雨