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苛々する。 苛々する。 この艦の連中は行楽気取りなのだろうかと、 ウルトラマグナスは周囲を見回した。
ナイツオブセイバートロンだかなんだか知らないが、 とにかくこれは遠足ではない。
確固たる目的があるのだ。それなのに…

「廊下は走るな!」
「室内で武器は展開するな!」
「反省文くらいまともにかけないのか!」

元々、 あのスピリチュアル侍がああだこうだと言ったせいで自分がこの艦に乗らなくちゃならなくなったんだからと、 怒りの矛先がドリフトにも向かう。
一発文句でも行ってやりたいのだが、 何故かドリフトはウルトラマグナスに近寄ってこない。 さらに苛立ちが無性に増した。
ぎろぎろと、 艦内を見回しているウルトラマグナスに一通のメールが届いた。

『今すぐ、 俺のところに来い』

ロディマスだった。 その短い文面に苛立つ。 メールには形式があり、 それはロディマスとて承知しているはずだと言うのに、 なぜこうも簡略化するのか。 まず、 件名に名前を入れて、 用件をいい、 閉めに署名を入れる… メールすらまともに送れないのかと、 ウルトラマグナスが執務室の扉をぶち開けた。

「ロディマス、 いいか、 メールには形式というものがあって……」
「早かったなマグナス。 おはよ」

一発いってやらねばならないと熱意に燃えていたウルトラマグナスだったが、 ロディマスの存外に柔らかい、しかしごく当たり前の言葉に勢いが削がれる。

「マグナス?おはようって言ってんだけど」

ほら、おはようは?と促されて、 文句を一旦しまいこみ深呼吸するように、 言った。

「…… おはよう」

ウルトラマグナスの言葉にロディマスが満足したように笑う。 何となくペースを乱されている事に、 気にくわないと思うも、 ため息をついて目の前のロディマスを見据える。

「… それで用件は」
「これ、なんだかわかるか?」

机の上に並ぶ書類を指差して、ロディマスがウルトラマグナスに尋ねるが正直なんだかわからない。
先を促すように、ロディマスを見れば面白そうに言う。

「これは ホワールから、 これは、 サイクロナスとテイルゲイト連名だな。 あとこれはドリフトで、 これはリワインド、こっちはスワーブ。 あと… これは、 誰だと思う?」
「誰だって構わない。 だからなんだ」
「えっとラングだな」
「だから、」
「全部、 あんたにたいする陳述書なんだよ」

まあ、 報告書とも言えるけどと、 ロディマスがウルトラマグナスを見る。
対するウルトラマグナスは、 さて、いったいいつ彼らから訴えられるような、行動をとっただろうかと考え込んでいた。
まったく思い付かない。

「記憶はないが」
「ほんとか? テイルゲイトからの陳述書読むぞ。サイクロナスを見つけたので飛び付いたら、 ウルトラマグナスに廊下を走った事と騒いだ事で、 反省文を書かされました。 だってさ」
「それは」
「まあまあ聞いてくれよ。今度はドリフトのな。 三本以上の帯刀は禁止すると、 ウルトラマグナスから達しが出ているのですが、都合上三本にどうしてもなってしまうため、 どうにかならないか。ラングからは、 最近ウルトラマグナスから逃げるために部屋に逃げ込んでくる人達が多いのでどうにかならないでしょうか? あとの諸々もそういった事ばっかりでさ。あのさ、 マグナス今、 すげえ苛ついてんだろ?」
「苛つく? 私にはちゃんとした理由があって行ったのだが」
「で、 多分俺ならそのまあ… なんだ、 違和感が解消できると思うんだよ」
「何故できるんだ」

ロディマスの言葉に、 存外にそっけない声が出た。 それとは反対に、 ロディマスは楽しそうに笑っている。

「マグナス」
「なんだ」
「たまった仕事は終わったし、 少し先の仕事までやってあるよ」
「…… あたりまえだ」
「とりあえず、 あんたの苛々を解消するためのひとつにはなるだろ?」
「苛々していない」

さらにロディマスは言葉を続けた。

「マグナスが思慮しろと言ったから、 ちゃんと考えて行動してる。 あとえーっと」
「メールの形式はどうした」
「ああ、 それは考えてなかったな。 今度はちゃんと形式にそうよ。 どう?苛々治まってきた?」

ロディマスが首を傾げて聞いてくるのに、 ふと思う。 確かに、 先程ここを訪れる前よりかはマシな気がした。

「よし、 話続けるぜ」

ロディマスがそんなウルトラマグナスの気持ちに気が付いたように、 会話を続ける。

「マグナスは、 趣味とかないの?」
「いきなりなんだ」
「何となく。 マグナスの事よく知らないから」
「書面にある通りだが」
「マグナスの口から聞かないと仕方ないだろ。 俺達、 まだ出会って1000年もたってないんだから」
「だが、 知らないことなんてないだろう」
「マグナスの字が綺麗なのは最近知ったけど」
「星をくれたやつか。 よく惜し気もなく作れたな」
「格好いいじゃん」
「そういう事にしておこう」

どうでもいい話だと思う。 正直、 これがなんだと言うのだろうか。他愛のない話が、 何故苛々を解消してくれるのか。
一通り下らない話をしたあと、 ウルトラマグナスがロディマスに切り出す。

「…… これになんの意味が?」
「マグナスが気づかないんじゃ仕方ないな。 ちょっと散歩しようぜ」
「そんなに暇ではない」
「なら俺の護衛してくれ」

ため息をつきつつ、 ロディマスについて廊下に出る。

「ずいぶん静かだな」
「サーイクロナス!!」
「そんなことなかったな」

苦笑するロディマスに、 ウルトラマグナスが声をあげようとする。 が、 何となく面倒くさくなってしまう。

「テイルゲイト」
「あ、え、ええとウルトラマグナス、ごめんなさい、その」
「廊下は走るな」
「おーい、 マグナスいくぞー」

ロディマスの言葉に、再びため息をつきテイルゲイトとサイクロナスに踵を返すと、テイルゲイトが背後で言った。

「は、反省文は?」
「以後きをつければそれで構わない。」
「マグナス早くー」

ロディマスの声に 話は終わりだと、 今度こそ踵を返した。

「人道的な対処だな」
「ロディマスが呼んだからだ」
「俺のせいかおかげか」

軽口を叩きながら、 角を曲がった時に、ドリフトと出くわす。

「あ、 ロディマ、」
「よう、ドリ… おい、!」

青い機体が視界に入ったとたんに、 ドリフトが刀を抜いた。 ロディマスとウルトラマグナスが驚くが最も驚いたのはドリフトだった。

「ちょ、 ごめ、いやでもこれだけは没収されたくなくて…、!!」
「誰がとるって言ったんだ」
「う、ウルトラマグナス…、 」
「… つまりそれで私を切り捨てると?」
「いや、 そうじゃない、 けど、 !! 帯刀許可は欲しいなって、 今談判しようかと」
「もう決裂したぞ」

青色吐息のドリフトを傍目に、 ロディマスがゆっくり横を通りすぎようとする。

「振るなよードリフト」
「え、 うん、 いやでも…、 まって今決裂したって!」
「振り下ろさなければ、考えよう」

何事もなく無事ドリフトの脇をすり抜けたロディマスに、 ウルトラマグナスがもう一度、 振るなといって傍らを通る。
振りたい気持ちを抑えるドリフトが、 二人を見た。

「さっさとしまえ」
「え、 許可は?」
「分った許可する」

呆けて二人を見るドリフトに思わず、 ロディマスが笑う。

「許すってさ」
「… 、 刃むけたのに?」
「マグナスは気が変わりやすいぞ」

そこまで言えば、 ドリフトは慌てて刀をしまう。

「今、 散歩中だからまたなー」
「え、? え?」

本当にわからないといいたそうなドリフトを背後に、 ロディマスが笑いながらウルトラマグナスに話しかける。

「おもしれえ」

なんとなく分ってきた。 ロディマスを追い回したり探しまわしたり、 言い争ったり、 くだらない話をしたり… つまりそれは、 ある意味で己の中におけるロディマスの存在が大きい証拠なのだ。 ロディマスが面倒をかけないということは、 一緒にいる時間が減る事で、 それはつまり…

「わかった、 分ったからそろそろ帰ろう、ロディマス」
「んー? 何がわかったんだよ」
「ロディマスの機嫌がいい理由だ。」

そういえば、 些細な事だと思う。 常ならば気にならないことが何故あんなに気になったのだろうか。 そういう風に考えれば直ぐに分るのだ。

「結局、 ロディマスしか私は止められないということか」

そういえば、 ロディマスはよく隣にいたと思う。 そのつど、 説教を止めたり、 クルーを逃がしたり… 、 しかし、 大抵ウルトラマグナスはロディマスを追いかけていると思う。
… それはそれで、 至極疲れないか?と自問する。

「過度なサボタージュはやめるべきだと思うぞ」
「過度? 適度の間違いじゃなくて?」
「過度だ、過度。 だが、 今日はいいことを一つ知れたな」
「んー、 何?」

ロディマスが面白そうに笑みながら、 ウルトラマグナスを振り返る。

鳳櫻月雨