「嫌い」

 ドリフトはよくそう言う。

 「そんな甘ったるい考え方なんざ嫌い」

 というのはまだ、理由が明確だからよしとして、
 
「そういうの嫌い」

 などと言われるとどうにも手に負えない。そういうのなどと抽象的かつ曖昧な表現では直しようがない上に、何が悪いのかわからない。ウィングからしてみれば、伝え方がわからないとか、そういう理由があるのだろうと思っていたし、ドリフトに悪気があるわけではないと知っているので、可愛いと思える範疇であったが、所構わず「嫌い」と言っているのは少々頭を悩ませるものであった。

 好きと言える、嫌いと言えるという事はとても良いことだと思っているのだが、それの伝え方に問題があると感じていた。もう少し優しい言葉を使ってはどうかと提案しているのだが、あまりドリフトには伝わっていないらしく、一向に覚える気配がない。

そうは言っても、言葉遣いなどの習慣的事項は一朝一夕で良くなるものでもないし、ウィング的方針で徐々に直っていけばいいとあまりきつくは言っていなかった。
 そして、幾ばくか時間がたって、ドリフトの言葉遣いが
 「あのクソッタレ、おっころしてやる」から「あの野郎、ブチ殺してやる」に変化した時。(ドリフトの名誉の為に言っておくならば、これはどうしようもなく頭に血が上った時の口調であるので、常時この口調であるというわけではない。)
ウィングとドリフトの関係は変化した。互いの存在がより大切な存在へと変わり、必要とし、される同士へとなりえた。

 それからと言うもの、ドリフトの言葉遣いは更に地味にだが変化していった。 前述した言葉遣いから、更に進化して、今では、どうしようもなく頭に血が上っても

 「あんな奴、殺してやる」

 くらいの言葉遣いへと変化していた。 非常に物騒な台詞では有るが。

 だが、どうしても「嫌い」の言葉だけは直らなかった。そして、悪いことにウィングはそれを指摘せず、というのも彼は一度もドリフトに「嫌い」と言われた事がなかったのだ。
 なので、そのうち直ればいいと、――― そう思っていた。


−−−−−


 「おいで、ドリフト」

 ウィングの言葉に、ドリフトは恥じらいながら傍による。これから、行うことは明確に理解していたし、初めてのことではないのだが、どうにも恥ずかしい。それも、これも、全てはウィングのせいだと思う。交感行為だって、初めてではなかったのに、行きずりの相手と適当にやってやられて済ませていたのにそれらの経験全てが無駄だったかのように、ウィングとする交感行為は違う色を含んでいた。その証拠に、ウィングがドリフトの額にに軽い音をたてて口付けをするだけで、無意識に機体が震える。緊張と、それ以上に期待を抱いて。握りあった、手のひらに力を込め、名前を呼んだ。

 「う、ぃんぐ」

 最近気がついた… というのも可笑しいのだが、自分はウィングの前では存外に上手く喋れなくなるらしい。言葉が、上手く出てこなくなるのだ。きっと、ウィングの魅力のせいだと思う。いつもと違いすぎる熱っぽい瞳で見られるだけで、言葉が詰まって出てこなくなる。軽口の一つすら言えなくなる。そして、それが、始まりの合図。

 「あ、あの、ウィング、あんまり」
 「見るなって?」
 「そ、そう、、見られるの、恥ずかしい、から、」
 「善処はしよう」

 ウィングが微笑み、つないだ手に口付けを落とした。どきりとドリフトが高鳴る。全ては伝わっているはずで、それがさらに恥ずかしさを募らせる。自分が今どんな顔をしているのかもわからずにドリフトはウィングを見つめる。その瞳に浮かんだ情の色に、心揺らしながら。不意に、近寄る互いの距離に、ドリフトは視覚を閉ざした。 

 「… ?」

 が、一向に与えられものは与えられず、不思議に思って目を開けると、互いの排気が絡み合う位の距離で、ウィングは止まっていた。いたずらに弧を描く口元を見て、ドリフトは悔しくなる。

 「、だましたっ…」
 「お前が可愛くて、つい」
 「ふざけんな」
 「よく、俺を困らせるからね」
 「そんなことしてな… あ、ふ、んぅ…」

 ドリフトの言葉を、遮ってウィングは口付けた。まだ、何か言いたげなドリフトだったが、次第に深くなる口付けにそんな事を忘れてしまったらしかった。徐々にとろけていく瞳が、ウィングを捕らえて離さない。
 背部の装甲を撫でながら下へと、手を移動させていく。内腿には既に、官能油が溢れていてしっとりとウィングの指を濡らす。受容部盖をずらすと、ぬるりと官能油が滴った。
無意識で、盖の鍵を開けていたらしい事に気がついて、ドリフトが口付けから逃げた。くすくす笑うウィングの声が聴覚を犯す。

「期待されてたって事かな?」
「っ…、う、… そ、ちがう」
「別に恥ずかしいことじゃないよ。いたって自然だ」
「でも、今までこんなこと…」
「それは、今までが可笑しかったんじゃ?」

ウィングが、なんといったところでドリフトには未知の体験なので素直に頷いておくことにした。
ウィングが、濡れた指を見せると、ドリフトの瞳が揺れる。

「今から、そう言うことをするんだから普通だと思うけれど」
「え…、いや、だ、だけど、それ、見せんな」

ドリフトが、ウィングの手を掴み視界から外へ追いやる。

「あんたのせいで、知らなくていいことたくさん知った…、んっ」
「大切な事ばかりだ」

ウィングが、そう言いながら受容部に指を入れる。熱い内壁を、擦るとドリフトの甘い声が聞こえる。ぐちゅぐちゅと水音がなり、ウィングの指が増やされてきた。耐えられなくてドリフトは懇願する。

「う、うぃんぐ、ぅ… も、はやく、、」
「まだ、だめだよ」
「んぅ〜ッ、いれてくれよぉ…っ」

己の根幹に、ウィングの熱を早く感じたい。少しの距離すら惜しい。だからドリフトは、この時間が苦手だった。だが、ウィングは

「俺はこの時が結構好きなんだドリフト」
「おれはいやだぁっ、んあぅう、うぃ、ん、やあぁん」
「ふふ、少しは付き合ってくれ」

内部にある線を撫でられ、擦られると堪らなく気持ちが良い。のは、最初だけ。

「ほし、うぃんぐ、おくぅ、ぁんっ」
「まだ。」
「んゃあッ、だめ、だめえじんじんする、んんぅ、あ、やあーッ」

ウィングは、自分の手の内で乱れるドリフトが愛しくて堪らない。ウィングはドリフトをただ愛でる事に至福を感じていた。

「うぃんぐ、はぁ?、あ、あんた、がまんしてっ…??」
「夜はまだ長いからね」
「ひっ、あぁう、もうやぁ… いれてよぉッ」
「そんなに?」

ウィングは、自身の接続器を出してドリフトを見た。あからさまに期待に潤んだ瞳がそれを見つめる。その様が、ひどくいやらしい。

「自分でいれる?」
「そっ、、そんなのできるわけ…!」
「俺はまだ、お前を可愛がっていたい」
「〜〜っつ! ばかぁ!」

震える脚を叱咤してまたがり、ウィングの肩に片方の手をおき、もう片方で受容部に接続器を宛がい、はあ、と一つ息を吐いて腰を落としていった。

「ああ!んうぅうあっ、〜〜ゃあっ、うぃんぐの、あっつぃ…」
「ゆっくり、ドリフト、ゆっくりだ」

ウィングの言った言葉を忠実に守り、時間をかけていれていく。下に見えるウィングの顔を見ないように目を閉じた。

「排気は止めないで」
「はあ、んぅ、あぁ…っ!ふぁあ、あ、あぅ、はあぁん」

ウィングは全く動かなかった。 ドリフトは、刺激が強すぎてこれ以上早くは動けない。 なにかの弾みで達しそうなぎりぎりの所で止まったまま、ドリフトは少しずつ体内にウィングの接続器をおさめていく。
こち、と何かに当たって、ドリフトは目を開ける。

「ひ、ああ、うぃ、?は、はいったあ??」
「俺の言った通りにできたね、いい子だ」
「うん、うぃんぐ、ういんぐぅ…」

ウィングの機体に寄りかかって額を擦りつける。優しくウィングがドリフトの頭を撫でてくれる。それが、嬉しい。

「続きをしようか」
「……… え?まぁ、ま、てウィング! 、なんで…」
「俺はまだ、お前を可愛がっていたいって言っただろう?」
「うそ。、ああ、あああァっ、それぇっ、!」

ドリフトの接続器を出したウィングは、とろんと官能油を流すそれを優しく撫で下ろした。 とろとろと溢れる官能油が量を増す。

「や、やめて、やめえ、ういん、はなしてぇ、らめ、いや」
「達する前には言うんだよ」
「ん、う!いく、いく、やあ〜、いくっっ!」

びくっと、機体を震わせ絶頂に身を任せようとして…… そのまま、ウィングは手を止めた。燻った熱が、ドリフトを苛む。

「んあぁ、なんで…ぇ?」
「なんでだろうね」
「あっ、ん!、いかせて、うぃんぐ、おねがいっっ、」
「まだ、」
「もういやぁ、ああぁッ」

高みから落ちてきて、息が整ってきて、ウィングは再び手を動かす。
「こんなのいや、きもちぃ、きもちいいからぁ、ツ」
「また、?」
「も、もう、やめてぇ、いきたい、いきたいぃッ…!て、とめちゃだめ、ぇ」
「っ、ああ。可愛いドリフト」

いやいやと首を振って訴えるも、ウィングはそれ以上の刺激はくれずに、ただドリフトを見つめていた。 その視線に気がついたドリフトも荒く息を吐きながら、ウィングの瞳を見つめる。

ウィングの情欲まみれの瞳が近づいてきて、唇が触れた。両手で、頬を包まれて逃れられなくされる。

無遠慮なウィングの舌が、ドリフトの口内を乱す。吐息が混じりあいどちらのものかの区別がなくなる。

「まっ…ちゅぅ… うぃん、ゃ…、んっ、ちゅ」
「ドリフト」

ウィングに名前を呼ばれた。たった、それだけで高まりが、ぞくぞくと背筋を駆けて抜けていく。もうだめだと伝えるよりも先にぎゅっと強く舌根に吸い付かれた。

「ん、ううううーッ!」

びくんとドリフトの機体が震えた。思考が纏まらず、真っ白になってしまう。ウィングが、ドリフトの下唇を甘く咬んでから唇を離した。全身を走る痺れにドリフトの唇が戦慄く。

「…、すまない、」

ウィングの短い謝罪と、ドリフトの受容部にじんわりと広がる生暖かい感覚で、達してしまった事を悟って、呟いた。

「……、このばかやろぅ…っ」

ぽろ、とドリフトの瞳から涙が溢れた。唇を噛み締めて、少しずつ言葉を繋ぐ。

「ばか、おおばか、! なん、で?今まで、がまん、させ、といてっ」
「ごめんね、ドリフト」
「あんな、あんなに、!あんなの!」
「ごめん、ドリフト」

ウィングは、抱きついて泣くドリフトの背を優しく撫でる。 散々、取り上げてもっと良いものを期待をさせておきながら、あまりにも呆気ない。しかも、己が夢中になって自制が出来なかったからという理由。

涙を落とすドリフトの背を撫で続ける。すすり泣きを続けながら、ドリフトが言う。

「うぃ、んぐ、なんて…
「ドリフト、本当に」
嫌い」


その時、ウィングから笑みが消えた。


急激に頂きに登った赤い熱が、さらに急激に足元へ下がり… 青い熱となってじわりじわりとウィングを焼く。
乱雑に、接続器を抜き取り衝動のままに、押し倒してドリフトの上に乗り上げた。
涙に濡れたままの、戸惑ったドリフトの瞳がウィングを捕らえた。

「ウ、ウィン……」
「なるほど、皆が何故それを止めさせるように言っていたのかよくわかった」
「え、?ウィング…?」
「ドリフト、今、なんて言った?」

同じで違う、ウィングの様子にドリフトが焦る。それもそのはず。ウィングは、今、怒っていた。本能的に危機を感じたドリフトだったが、体躯に被さるウィングはどかすことなどできなかった。

「答えなさい、今、なんて?」
「っ…、ウィングが悪い!」
「…… ふぅん?」

ドリフトの言葉が、ウィングの怒りを煽っていくが、気が付かずドリフトは言葉を続ける。

「あ、あんなにやだって言っただろ!それなのに」
「ドリフト」
「ざけんな、!、弄ばれてる、そんなの!」
「悪かった、すまない。ごめんね」
「謝ったって、」
「たしかに、酷すぎるね。ドリフトが、怒るのも無理はない。だけどね、世の中には言って良い事と悪い事がある。どんな、状況でもだ。さっきのお前の言葉は、言っては悪い事だ。特に…」

ウィングは言葉を切って、ドリフトの目を見て言った。

「大切な人には。」

鳳櫻月雨