戦いが日を追うごとに悪化していくことに、ウィングは心を痛めていた。
何故、同属のものが争わねばならぬのか。
確かにこの体制は間違っているかもしれない。
それすらも、彼らにとってみれば恵まれた者のたわごとだと言われそうではある。
だが、 どう考えてもこの戦争は可笑しい。
ウィングの目にはこの戦争が最早善悪の区別をつけることができない只の破壊行為であると、 そう写っていた。
この戦争は己が生きる為に相手を殺す… そんな無意味なものであるとさえ思っていた。

戦火で追われたものが逃げ出し、つかまり、有機体では出来ないような仕事をさせられ、またはその有機体の売買にかかわり… しかし、ウィングはこの星を愛していた。それだけはいえた。

今日も今日とて、ウィングは散歩に出かけていた。 日課に程近いこの行動はあまりほめられたものではないらしく、ダイアトラスの表情は険しいがやめることは出来なかった。

自分に出来ることは大したことではないが、一人でも救えるのならば救うべきだと考えていた。いつもの行く道を行こうとして、ふと思い立つ。

先日落ちた船はどうなっただろうかと。奴隷船であるその船は、ウィングが存在に気がついたときには既に、全滅していた。 その亡骸を、葬ったのはまだ記憶に新しい。

あの人気のない崖では、死者とて寂しいであろう。出来ることならば母なる星に返してやりたかった。

変形して一気に加速すれば、少ししてすぐにその場所が見えてくる。 黒光りするその船はひっそりと、 崖にあたって大破したままだった。

再び変形して、そのそばに近寄る。この船はおそらく過重に耐え切れなかったのだろうと容易に推測がついた。
いくら俗世に疎いとはいえ、奴隷の解放に携わっている以上彼らの暮らしがどれ程悲惨なものかはわかる。

暗く沈んだ気持ちで、 地面に目をやりウィングは首をかしげた。

「こんなものあっただろうか?」

ウィングの足跡より少し小さい足跡は、点々とあちらこちらに散らばっていた。ゆっくりとその足跡をたどっていくとその行き先は墓場であった。

その墓を掘り返したような跡を見つけ、ウィングは顔をしかめた。どうやら不届き者がいるらしい。

その足跡の形からして幼体だろうかと、考え込む。興味本位で掘り返しているのかはたまたなんらかの目的があるのか、

いずれにしても悪いことであることに違いはない。

ここで張ってれば、 また来るだろうかと船の陰に隠れ、その者を待つ。

−−−−―

待ち続けるのも面倒なものだと、ウィングはため息をついた。 なんだかずいぶん待った気がする。
それもそうだろう。南の空高くにあった日差しは沈み込んでいるのだからかれこれ何時間待ったかすらわからない。 待つよりも探した方がいい気がすると、ウィングはいまさらながら思う。 いまさら過ぎるとさえ思った。

思考が彼方に行きかけたウィングだったが、かさりと別の足音がして一気に思考を戻した。ここまで待たせたのだから、それ相応の何かでなければ困る。
その足音のするほうを探し、墓の前に座り込む白い物体を見つけた。 ウィングの推測は的中していたらしくそれはまだ幼体であった。
なんだか必死になって掘り返している姿が哀れに思うも、 ウィングは一気に駆け出した。

ウィングの持ち前の身軽さに、幼体はなすすべもなくつかまりひっくり返る。

「…何をしてい、??」

そして、 言葉をとめた。恐怖におののき震えたその様は、まるで奴隷のようであった。
今、己は奴隷商人と同じような恐怖を与えている… そのことに愕然とし、思わず握りこむ手の力がゆるくなる。 その隙を幼体は逃さなかった。
ウィングの手から逃げ出し、変形して一瞬で空へと飛び立つ。
一歩間を空けてからウィングも変形して飛び立った。
一定の間隔をあけて追跡をし、しかしその幼体はそう長くは飛ばなかった。正確に言えば、循環不良の故に飛べないのだが。

崖のふもとにかしゃりと降りたった幼体の反対側の斜面に降り立ち、足をしのばせ近づく。 その崖の下に見えたのは、ウィングが見つけたときと同じような形の船… つまり奴隷船だった。一船だけがおちたとばかり思っていたがそうではないらしい。

幼体は周りを気にしながら、ふらふらとその船に近づく。再び、辺りを見回した。その極近くで、ウィングは排気を忍ばせた。闇夜と影が、ウィングの姿を隠してくれる。そろりと船の中に幼体が入ったのを見て、ようやくウィングもその船の前に立つ。

これに乗っていた奴隷や商人はどこへきえたのだろうかと思い辺りを見回すも、何もみあたらなかった。

もしかしたら、罠かもしれないと思いながら船の中に歩みを進める。 船の中は闇が一層深く内部を覆い隠してしまう。さすがのウィングも何も見えない恐怖に駆られ漠然とした不安が浮かぶも、もう中に入ってしまった以上どうしようもない。

少しづつ歩いていけばこそこそと話し声が聞こえてきた。 背の剣に手をかけ、いつでも扱えるようにする。その話し声を追っていけば、ぼんやりと明かりが見えた

「…、だ、… え…あ…」
「わか、…、ん、…、う」

声が少しづつ大きくなる。そして、ウィングの耳にはっきりと聞こえてきた。

「きっと追ってはこれないから大丈夫だよデッドロック」
「… それはたぶん嘘だと思う」
「ただしい判断だ」

一体の後ろから、首元に刃を向ける。驚くべきことに、幼体は一体ではなく二体であった。

よく似た格好の二体はびくりと機体を震わせた… が、 即座に反応したのは先程の幼体とは別の幼体であった。

かばうように、背中に片方の幼体を隠す。手元の適当な銃を握り締め、ウィングへと銃口を向ける。

「近づくな、殺すぞ!」


鳳櫻月雨