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円卓で決まった決定は実に、 あっけなかった。 その決定に若干の透かしをくらいながら、 デッドロックは今日もまた治療室への道のりを歩く。

「なんだって?」
「保留だとさ」
「よかったじゃないか」

ウィングは生きていると言うのが結論ではある。 だが、 生きているというだけであった。 深く昏睡している状態を保ち続けているその機体に触れ、 デッドロックは言った。

「ウィングの目が覚めてから決めるんだと」
「あやふやだな」
「さっさと起きてもらわないと困るな」

つんつんと、 ウィングを突っつくデッドロックにドリフトが排気を吐いた。

「ウィングも同じ事をデッドロックにやっていたな」
「あ?」
「この子は良く寝るなって」
「よく寝てるのはどっちだよ」

あきれながらも、 デッドロックは突くのをやめた。

「お前が来たんじゃ俺はもう行くよ」

立ち去るドリフトの背中の剣は、 ウィングのものである。 ドリフトがその力を引き出すことができるより当初からずっとほしがっていたその剣に、 なにも思わないわけではない。 だが、 うらやましさや嫉妬心ではなく、 それはデッドロックの誇りにも似た何かであった。

「早く起きないと、 あいつが持ってちまうぞ」

あの剣を背に抱いてからというもの、 ドリフトが人見知りをすることも、 雫をこぼすこともなくなっていた。 そして、 デッドロックは剣を握るのをやめ、 今では銃でしか戦闘をしなくなった。 ウィングの傍らで銃を総て分解して磨き上げる。 此処で、 銃を使うだけのものはデッドロックしか居ない。 なんとなく孤立しているとは思うが、 それに以前のような違和感は覚えなかった。

「話さない相手でよく飽きないね」
「話さないから静かでいいじゃねえか」

医師の言葉に、 冗談で返し銃を磨き続ける。

「ずいぶん上手に手入れできるようになったね」
「あんたもやってみれば」
「私の手はお前達の怪我を治すためにあるからいいよ」
「いつもお世話になります先生」

分解したものをまた組み立て、 かしんと一発空撃ちして、 … いたずら心が目覚めた。

「はやくおきろ」

また、 かしんと一発空撃ちする。 その様を見ていた医師がくすくす笑って言った。

「ハンマーがさびてたのに気づかなかったんだって?」
「…… は?」
「ウィングがそういってたよ」

しばし考えたデッドロックは医師の話がなにかを理解し、 ばつが悪そうに言った。

「撃った事なかったから知らなかったんだよ」
「知らなかったんじゃしかたないね」
「あんまりからかうんじゃねえ」

あの銃はどこにやっただろうかと、 デッドロックは浮かべるが目の前のウィングという脅威からドリフトを守ることしか考えておらず、 あの銃の行方はわからなかった。 最も、 ハンマーで火花を起こすような旧式の銃が何かの役に立つとは決して思えないのだが。
ウィングの元へはひっきりなしに客が訪れるが、 今日は比較的少ないようだった。

「こいつ、 何時まで寝てるんだ?」
「うーん」

何時になれば目が覚めるかなんて誰にもわからない。 確かに最善を尽くしてくれはしたが、 ウィングの視覚器に光が宿ることはなかった。

「そのうち、 かな」

ウィングがこうなる前に言った言葉に、 舌打ちしそうになる。 なにが大丈夫だ、 全然大丈夫なんかじゃない。
銃の一通りの手入れを終え、 デッドロックは言った。

「またくるから、 それまでよろしくな」

ダイアトラスの話では、 戦争はますます激化しているらしかった。 そして、 その話をするたびにドリフトが何か物思いにふけっているのも知っていた。 だが、 ウィングのこともある上に、 ドリフトがなんの考えもなしに、 この場所を出て行くことはないと思っているため、 言い出すのをただひたすら待っていた。

「おい、 また怪我したのか」
「ちょっとね」
「ちょっとじゃないだろそれ…」

その日のドリフトの怪我はすこぶる酷かった。 アックスとの組み手で受身もとらずにたたきつけられたらしい。

「やりあうのもいいけど、 アックスとやるときは集中しろよ。 ただでさえあいつでかいんだから」
「アックスも驚いていたよ」
「当たり前だろ」

なおったばかりのその部分をべしんと叩く。 恨みがましい目線を向けてくるドリフトにデッドロックが言った。

「なにかんがえてるんだ」
「うーん…、 今はデッドロックのことかな」
「ぶっとばずぞ」
「暴力的だな」

くすくす笑うその裏側に、 ドリフトがなんらかの苦悩を抱いているのは知っていた。 だからこそ、 ごまかす様が小憎たらしい。

「何か決めたら真っ先にデッドロックに言うから安心して」
「待ってるから、 今は力をつけろ」
「ねえデッドロック」
「なんだよ」
「俺が今お前に剣を突きつけてきたとして、 お前は銃だけでどう戦う?」

ドリフトの言葉にデッドロックは視覚器を絞った。

「…… 考えてなかった」

ドリフトの問いかけは実に全うであった。 その通りだと思う。

「剣もきちんと身に着けておいたほうがいいとおもうけど」

ドリフトの言葉に、 デッドロックはため息をついた。 だが、 ドリフトと同じ剣ではいやだとも思う。

「そこで俺から、 はい」
「なんだこれ」
「刀」
「なんか短いな」
「銃の構えも邪魔しない親切設計だよ」
「そんなの頼んでない」

ドリフトの差し出してきたその刀は通常の半分ほどの短さしかなかった。

「どこに差すんだ」
「足?」
「…… 足」
「明日ダイアトラス様が自らつけてくれるってさ」
「…… ダイアトラス様が? 珍しいな」

ダイアトラスが自らつけてくれることは滅多にない。

「頼めばつけてくれるけど」
「容赦ないからな」
「恐ろしい方だから、 つけてもらうたびに半殺しにされてる」

明日はウィングもうるさがるかもしれないねと、 ドリフトが言う。

「こないだなんて刀身握りこまれて引くことも押すことも出来なかったよ」
「怖すぎだろおい」

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鳳櫻月雨