変な所で不器用だよね
唯野がまだ、松田と恋人という関係になってから時間が経っていない頃の話だ。
「……ん」
「え、何?」
「コレやる」
割と素っ気なく、何ならぶっきらぼうに感じるくらいの態度で渡される小さな箱。箱の左上には小さなリボン。簡素だが綺麗にラッピングされている。
記念日でもない、誕生日でもない。何らかのイベントの時期とも全く被っていない。だというのに唐突に渡されたプレゼント。
一言断りを入れて開けてみれば、色も形も大きさも唯野の好みをしっかり抑えたアクセサリーがそこに在った。
「どうしたの、突然」
「あー、まあ、気にすんな」
「ええ?」
松田が何故それを突然用意したのか全く見当がつかない。若干疑問や引っ掛かりは残るが、彼女としては嬉しく思うのは当然な事だった。何せ彼から物を贈られるということは中々ない。
唐突な贈り物ではあったが気に入ったのは紛れもない事実ではあるが、貰って以降アクセサリースタンドに飾っている。単純に使うのを勿体なく思ったのだ。汚したくない。無くしたくない。そんな気持ちばかりが先行する。
(……何かやましいことがあっての、ご機嫌取りだった……なんてことは無いよね。違っていてほしい)
やる。と、たった一言と共に渡された小さなアクセサリー。それを唯野が手放しで喜ぶには、あまりにも言葉が無さ過ぎた。
室内灯の光を反射して小さな石がキラリと煌く。
外の陽を浴びる日は来るのだろうか。もしかしたらそんな日は来ずに飾られたまま終わるのかもしれない。使ってこそ意味があるというのに。唯野の目が切なげに細められた。
──この状況を彼の同期達が知ったならば、きっと松田は盛大に小突かれていたところだろう。もしくは呆れられたかのどちらかだ。
松田陣平という男はここぞという時に言葉が足りない。手先は器用なくせに変な所で不器用なのだ。どうでもいい相手には当たり障りなく対応できるというのに、本当に大切にしたい、大事にしたいと思う相手にこそ上手く接することが出来なることが多々見受けられる。
例に漏れず唯野に対しても一見素っ気なく見える態度を取りがちだった。頭の中では様々なことを思い巡らせている癖に。
そもそも、あまり彼女へ物を贈ることがなかったのは松田なりの考えがあった為である。好みを把握してから、どうせなら気にいるはずの物を用意したい、という気持ちが強かった。
しかし表に出していないのだから、そんな胸の内が伝わるわけもない。だから、こうも唯野が素直に喜びきれない現状に繋がってしまっている。
贈ったはずのアクセサリーを中々身につけてもらえずにいることに焦れた松田が、ちょっと口を尖らせて聞いてくるのはそう遠くない。
□
特筆することは何もない日々の中で、唯野は日を追うごとに松田の視線が気になって仕方がなかった。
凝視されている。いや、観察されていると言えばいいのだろうか。そんな視線に気づいてしまった為だ。
「あの、松田くん? 何か言いたいことでもあったりする?」
「あー、その、よぉ。…………この前やったヤツ、好みじゃなかったか」
ツンと唇を尖らせているが不機嫌いう訳ではなさそうだ。不満を露わにしているのとも違う。
唯野には、どちらかというと拗ねているような表情に見えた。僅かに不安の色も滲んでいるような気がしたが恐らくは気のせいだろう。
「この前って……あ、アレ?」
「おう」
「勿体なくて飾ってる」
「飾っ……いや着けろよ」
一瞬言葉に詰まった松田がジトリとした目を向けたのは仕方がない事と言えよう。
身に着けてこそのアクセサリー。まさか飾られているとは思うまい。
「……ん? ってこたぁ、気に入らなかったわけじゃねぇんだな?」
「うん。すっごく好みだったよ。だから余計に落としちゃったら、とか考えちゃって。せっかく貰ったのに落としてなくした、とか嫌だしね」
「……そうかよ」
そこまで気に入ってもらえたことを喜べばいいのか、身に着けてはもらえずにいることを悔しめばいいのか。何とも言えない板挟みに松田は言葉少なに黙り込んだのだった。
ここで素直に「それでも着けてほしい」と言えないのが松田らしい。やはり不器用な男である。
#decnプラスでtwとタイツに上げていたネタを小話にして掲載です。
松田の方はそれらしい態度も言葉も足らないからちょっとすれ違いそうになるだろうけど、この件においては恐らくちゃんと話をするだろうからきっと大丈夫。
※松田が変に突っかかるような態度を取らなければネ!