フードにはロマンが詰まっている

暖房のきいた室内にカタカタとキーボードを打つ音だけが響いていた。耳をすませば加湿器が蒸気を吐き出す音も聞こえてくるが微々たるもの。
蒸気が空気中に溶けていくその向こうには、諸伏が黙々と作業をしている様子が薄らとぼやけて見える。唯野からは後ろ姿しか見えないが、集中しているのが良く分かる。大きな背中をじっと見つめてぼんやりと頭の隅で思うことがあった。

(フード付きの服ってフード部分の布が重なって特にあったかいんだよなぁ)

こんなことを考えるのは、中々に寒さが堪える季節になってきてしまったせいだろうか。いや、特に何も考えずにフード付きの服を着用しているであろう諸伏のせいだ。などと唯野は内心で責任転嫁する。
フードにはロマンが詰まっているのだ。仕方あるまい。

「どうした、ぼんやりして」
「え、あ、……うん」

まるでジッと向けられていた視線に応えるように振り向いた諸伏と唯野の目がばっちりと合う。実はしばらく前から諸伏は声を掛けるタイミングを計っていたのである。
殺気立っているわけでも悪意や敵意が含まれているわけでも無い。非常に穏やかで柔らかなものではあるが、諸伏が視線に気づかないわけがない。それも、ずっと向けられたままであるならば、気付けない方がおかしいのだ。
柔らかい声で尋ねられるも唯野は返答に窮した。聡い彼のことだ「何でもない」と告げても説得力はないだろう。

(流石に考えてることまで筒抜け、とか、ないよね……)

考えていた事が考えていた事なだけに、ちょっとだけ気まずさを覚えて僅かに視線を逸らす。それを目で追った諸伏が僅かに目を細めたことに唯野は気付かない。
──まさか言えるわけがない。あのフードの下に手を突っ込みたいな、なんてことを考えていたなんて。

「最近寒いよな〜って思っただけだよ」
「……ふぅん?」

誤魔化すように告げるも、明らかに納得していない声色が返ってくる。本当に? と問うような視線に負け、視線だけではなく顔も背けた。

「君のことだから『ぬくぬくしたいな』って感じのことを考えていたんだろ。オレを見てたってことはフードか?」

どうやら視線を向けていた先にあったものには気づかれていたらしい。唯野はキュッと口を噤んだ。

「……、……、……」
「はは、その顔じゃあアタリだな」

完全に考えていたことを察せられたわけではないことに安堵すれば良いのか。思考回路をほぼほぼ把握されていることに慄けば良いのか。はたまた自分が分かりやすすぎることを嘆けば良いのか。まあ悩みどころである。
うろ、と視線を泳がせたままの彼女に諸伏の表情がふと何かを思いついたようなものに変わる。ゆるりと双眸が弧を描き、彼が腰を上げるまであと数秒。


2024/2/4
#decnプラスでtwに上げていた小話を清書しました。
このあと景光くんが取る行動は多分こんな感じ。
�@おもむろにパーカーを脱いで夢主に羽織らせて「オレは寒くないから着てていいぞ」
�A前が開いてるパーカーの場合はパーカーで包むように抱きしめて「これなら寒くないだろ?」
�B「ん」と両腕を広げてスタンバイ