それは彼女が決めたことだ。

如何なる理由があろうとも、如何なる動機があろうとも、それらには関係ない。
己の世界を害する存在だと理解し、得た瞬間に境界線を隔てた先の存在『敵』として認識される。

彼女は己が獲物といえるそれを構え、自身と対峙した瞬間に向こう側の住人『敵』なのだと確証する。
どれだけ言葉を交わし、どれだけ共に歩んできたとしても『彼女』が『敵』であり続ける限りは『隣に立つ』事はもうできない。

故に彼女との戦闘は避けられなかった。

エアルの無い世界での魔術、人間離れした戦闘能力。飛びぬけた反射神経を持ち合わせたその『敵』に、彼らの手は届くことはない。寧ろ一閃一閃を受けるたびに、後退していく自分達の力の無さに腹が立った。

だが、引くわけにはいかない。
かつて世界を守った彼らは苦戦するも、力強く踏みとどまり押し返す。
未完成品だがマナを源とし発動する魔術を目くらましとし、『敵』に僅かな隙を作る。

刹那、二つの閃が駆け巡る。
後ろと前からの二の線は一直線に対象物へとかけよる。

『敵』となった彼女が目を見開くのがわかった。
空中で交わった視線に、彼は苦味をかみ締める。

こうするしかなかった。こうするしかないのだと彼は柄を握り直し、『彼女』の心臓へと刃を滑らせた。





2016.05.10


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