明日天気になあれ




次の日、目が覚めてそりゃもう綺麗さっぱり元どおり、全部夢でした!なんてそんな展開をまだ諦めていなかったから同じ景色には大きなため息が出た。

レッドくんと看護師さんの説明によれば怪我はそこまでひどくはないようで1週間もすれば痛みも完全に引いて外を歩けるようになるそうだ。しばらくは退屈ね、と看護師さんの言葉を気にしているのかレッドくんは毎日、時間を見つけては私のところに顔を出して苦手と言っていたお喋りをしてくれる。おかげでこの世界のことや、ここに来ている人たちのことを少しは知ることが出来た。部屋に来てくれるのはレッドくんだけではなく、最初こそは苦手だったグリーンさんとも他愛のないお喋りをする仲になった。レッドくんとグリーンさんは幼馴染で親友でありライバルであり、とにかく仲は深いはずなのに必ずレッドくんがいないことを確認してから部屋に入ってくるグリーンさんには思わず笑ってしまう。

「あ、また笑ったな」

「だって毎回面白いんですもん」

「あいつ怒らせたらめんどくせぇからな」

グリーンさんから聞くレッドくんの話は無口、無愛想、バトル狂、無関心とあまりいい話が少ない。もちろん仲がいいからこその飾らない姿なのは間違いないのだろうけど、そういえば私もレッドくんが笑った顔というのは見たことがないような気がする。

「レッドくんってどんな時に笑うんですか?」

「あいつが笑うとき?あーーーそうだなあ…あんまりないけど強いて言うならバトルの時くらいか?強い相手がいたり逆境に立たされてたりするとたまに」

「相手はグリーンさんしかいませんね」

「おいコラおまえ俺が勝ったことないの聞いても言うか」

「あ、いや、ごめんなさい」

「口元が笑ってるぞ、少しはあるだろ」

くすくすと思わず笑みが口元から漏れていく。グリーンさんだってカントーの最後のジムを任されるほどの実力を持つトレーナーなのだ。現にその実力を認められてカントーのジムリーダーが集う大会ではなく、チャンピオンが集う大会に参加が決まっている。そのグリーンさんが一度も勝てたことがないレッドくんは恐らくこの世界で一番強いトレーナーだ。

「レッドくんのバトルを見てみたいなあ」

「まあ公式戦で見れるのはまだ先だな。俺たちが出るチャンピョンズリーグは一番最後だから」

「それ以外でバトルはしないんですか?」

「あいつ気まぐれだからなあ。名前が頼めばやるんじゃないか」

「私が?」

「あいつ、名前のことポケモンだと思ってるからな」

「ポケモン!?私が!?」

面倒を見てもらえることはもちろん嬉しいことだけれど、そうかあ、ポケモンかあ。確かに頭を撫でてくれたり優しく背中を叩いてくれたりやってくれていることはポケモンに対してか、人であったとしても小さな子どもといったところかな。うんうんとグリーンさんの言葉に妙に納得してしまう。

「明日から外に出れるんだっけ?」

「はい!お話に付き合ってくれてありがとうございました」

「いや、俺も暇つぶしになったしありがとな。明日からの予定は何か立ててあるのか?」

「身の回りの買い物に行くためにレッドくんが人を紹介してくれると言っていました。カスミさんという女の方だと言っていたような」

「ああ、そういうのは女同士の方がいいだろうからな。カスミならおまえも話しやすいだろ」

大会側での私の存在はメディアで大々的に報道されたこともあり、あれやこれやの噂を静める意味でも不慮の事故という扱いになった。怪我の治療費だけではなく、賠償金として受け取ってしまったお金のおかげでしばらくは生活には困らなさそうだ。本当の原因がわからない以上何とも言えない気持ちだが、生きていくためと思って有り難く頂戴しておこう。生活をしていく場所もレッドくんとグリーンさんのおかげでしばらくは選手と同じ、余っている控え室を使わせてもらえることになった。2人には感謝をしてもしきれない。

「久しぶりの外だ、楽しんでこい」

グリーンさんの言葉に笑顔で頷く。明日の天気は晴れだといいな。