被害4:無意識

いくつもの施設を有する観光地のライモンシティに引きをとらないほどの大都会ヒウンシティ。港やゲームフリークなど名物となるものはたくさんあるがその中でもヒウンアイスは格別だ。

「結構並んでるなあ…」

「ヒウンのアイスはイッシュのガイドブックに載るほどの人気ですからね。足の疲れは大丈夫ですか?」

「大丈夫です」

「……そうですか」

「どうして少し残念そうなんですか」

「いえ…もし疲れたとおっしゃるのであれば#name#さまを背負えるかと思ったのですが」

「本日疲れる予定は一切ございません!」

仮に疲れたとしてもノボリさんには絶対に言わないでおこう。背負うなんて端からみれば冗談じみたことも平然とやりかねない。私をいくつだと思っているんだ。

「お味の方はお決まりですか?」

「すっごく悩んでるんです。バニラもおいしいしストロベリーもすてがたい」

「目が本気ですね」

「アイス選びは戦場です」

「意味は理解しかねますが真剣な#name#さまも素敵でございます」

出かける前にこの味にしようと決めていても、結局いつも注文の直前まで迷ってしまう。ここは基本のバニラにしようかな。でもストロベリーも久しぶりに食べたいし…いやここは間をとって違う味を…

「決めた!ストロベリーにします!」

「さすがの決断です」

「ノボリさんは私がアイスの味を決めただけで感動するんですか」

「ええ、細かく言うのであれば#name#さまが生きているというだけでもこの世の神秘、感動でございます」

「日頃から人間の神秘を感じているのなら素敵なことですね…」

ノボリさんが言うとどうにも大袈裟に聞こえないから不思議だ。もしかして洗脳されている?

「ノ、ノボリさんはどの味にするか決まりましたか?」

「わたくしはアイスを食べる#name#さまを見ているだけで幸せでございます」

「え!?食べないんですか!?」

「こういったものは食べ慣れておりませんので」

「だったらなおさら食べるべきです!はじめて食べるならバニラがおすすめ!せっかく一緒に来たんだから食べましょうよ!」

「……そうですね。#name#さまがそうおっしゃるのであれば」

「よかった…」

半ば強引な形になってしまったが、長蛇の列に並ばせてしまったからには私に付き合わせるだけでは申し訳ない。それにヒウンアイスは自信をもっておすすめできる。ガイドブックと私のスイーツサーチは裏切らない。

「お待たせ致しました。ご注文は?」

「えっと、バニラ1つとストロベリー1つください」

「200円になります」

「ではこちらで」

「待ってください、並ばせたんです私が払います」

「#name#さまにお支払い頂くわけにはいきません。わたくしの命にかえても」

「大袈裟です」

こんなとき何かと店員さんは男の人のお金を受け取るものだ。そうでなくても店員さんがノボリさんを見て頬を赤らめるのを私は見逃さなかった。ノボリさんは普通にしていればかっこいい。だからこんなことはずるい。

「どうぞ、#name#さま」

絶対にずるい。

「ありがとうございます……」

「近くにベンチがありましたね。そこでゆっくり、」

「……ノボリさん!」

「はい」

「次は絶対に私がご馳走しますから!約束ですよ!」

「#name#さま……」

まるでそこだけ時が止まったかのようにノボリさんが固まったのがわかった。腰痛?ぎっくり腰?そのわりには痛がる様子もない。じっと続く言葉を待てばノボリさんは信じられないとばかりに声を絞りだした。

「次があると自惚れてもよろしいのですか……」

自分で墓穴を掘ってしまった。