被害3:読心術
毎日ギアステーションに通い、バトルを続けるお客さんのことを噂では廃人というらしい。バトルをすることは決して悪いことではないしそこまで打ち込める精神力も尊敬するほどだ。私だって出来ることならそうしてみたいが、どうにも集中力が切れて判断力が鈍ってしまう。私はゆっくりでいい。ゆっくり焦らず、楽しみながらバトルができればそれでいい。休息だって大事な経験値だ。
「今日は何曜日だっけ」
「火曜日でございます」
「だよね!じゃあヒウンアイスが」
「ここからヒウンとはまた遠い!道中何かありましたら…それこそ#name#さまの目に砂の一粒でも入ったものならわたくし目薬にもなる覚悟でございます」
「でたな廃人!!」
「これはまた新しい呼び名ですね」
「この人絶対鬱にならないタイプだと思う」
「わたくしにはもったいないお言葉」
「誉めてないです」
一体どこから現れるのか。体にセンサーでもつけられているのではないかと疑うほどノボリさんはどこにだって現れる。けれど今日はいつもと様子が違う。ノボリさんはサブウェイマスターの制服である分厚い黒コートを着てはいないし、帽子だって被っていない。ワイシャツに黒いパンツといういかにもラフな格好だ。いつにも増して身体の細さが際立つ。
「お休み…ですか」
「ええ。怒涛の65連勤を乗り越えた上での久しぶりの休みですね」
「65…!?それって労働法に違反じゃないんですか?」
「書類上は休みになっているので問題ありません。#name#さまにご心配して頂くにはあまりに小さすぎる問題です」
「でも……」
私では気が遠くなるような日数を軽々と流してしまうあたり、もしかするともっと長い日数の勤務をこなしていたこともあるのかもしれない。この人は普通にしていれば多忙を極めるサブウェイマスターに違いはないのだ。
「じゃあ今日はゆっくり休んでください!明日からまたお仕事なんですから」
「ええ、そう思いましてここにいる次第でございます」
「はい?」
「わたくしの癒しが#name#さま以外にあるとでも?せっかく仕事に邪魔をされずに#name#さまのお側にいることができるのです。この休みを有効に使わない手はございません」
「側にいることを許可した訳じゃないんですけどね。軽くホラーです」
「わたくしのことはどうぞお気になさらずに。#name#さまは#name#さまの休日をお楽しみください」
「ストーカーされてたら楽しめないです」
ノボリさんの気持ちがわからない。睡眠をとれば疲れはとれるし、おいしいものを食べれば力がつく。それらを全て蹴ってまでノボリさんは私と共に時間を過ごそうとする。
「……アイス食べてのんびりするだけの予定ですよ。それでもいいなら一緒にどうですか」
「よろしいのですか?」
「ノボリさんがいいなら…」
本当にそれでいいのなら、私といる時間が睡眠にも食事にも勝るような癒しになるというのなら、ゆっくり休んでほしいから。ただ申し訳ないことに自信はまるでない。
「ありがとうございます!!」
「ひいっ!」
がっつりと手を握られれば思わず悲鳴があがる。あの、命を助けたわけじゃないんだからそんなに喜ばなくても。
「#name#さまとご一緒できるなんて夢のようです…わたくし未来永劫この日を忘れません」
「大袈裟です!!」
「わたくしにとっては命を救われたも同然でございます」
「私声に出してました?」
どうやらストーカーは読心術を覚えているみたいだ。