Life is ... vol.1





自分の前世を覚えてる?
ほとんどの人は覚えてない。私も、小さな頃は覚えてなかった。
パパとママに私。幸せに暮らしてた。けどある日その日々は突然失われた。
いつもそばで守ってくれるお兄ちゃんがいて、一緒に遊ぶリズがいて、私の世界は、パパとママとお兄ちゃんとリズ、そして数人の大人たちで構成されていた。
その日、パパがママに何かを言って、ママがパパに抱きついてた。
お兄ちゃんもリズもいつもとは違う雰囲気でパパとママの横に立っていた。
パパとママはいつも仲良しで、私は2人がニコニコしてるのが大好きだった。お兄ちゃんとリスが笑ってくれるのが好きだった。
2人は、お互いが大好きで、愛していて、そして私のことを愛してくれていた。
2人から注がれる愛は私の心を満たしてくれた。
お兄ちゃんとリズも私を大切にしてくれてた。
けど、あの日。
4人からの愛を私を失った。今も覚えてるあの日のこと。
私は、大好きなレインと一緒に隠れんぼをすることになった。パパとママの寝室にあるクローゼットは、パパとママの匂いがするから大好きだった。普段は隠れちゃダメな場所。
でも、あのとき、ママは言った。

『いい?ここを誰かが開けてくれるまで出てきちゃだめよ?』
『隠れんぼ?』
『そうだよ、今日は鬼さんに見つからないように隠れててね?』
『うん!ママは?』
『ママも別のところに隠れるよ』
『ママと一緒がいい!』
『ごめんね。ママは、るりを鬼から守る役だよ』
『パパは?』
『パパもるりを守る役だって』
『私もパパとママまもる』
『うん、そうだね。パパとママ守ってくれるのね。じゃあ、やっぱりレインとこの中で待っててほしいな』
『レインと一緒に?』
『そうだよ、それがるりが鬼を退治するためにすること』
『お兄ちゃんとリズは?』
『2人は外で鬼退治。るりはここで瑠璃が鬼退治できるようになるまで時間を稼ぐの。待つことも必要だってママ教えたよね?』
ここで、『いやだ!』と駄々をこねたら未来は変わっていたのだろうかとふと考えることがある。そして、そうしていたら私もあの場所でパパとママたちと同じように殺されていたんだと思う。
『・・・うん、わかった。るりは鬼退治ができるようになるまでちゃんと待つ』
この選択をすることがパパとママとの永遠の別れになることどこかで気が付いていた。私が鬼退治できるようになる時というのは、きっと今この時ではなくて、ずっと未来の話だとわかったけれど、2人に託された未来のために私は息をひそめてクローゼットの中に隠れた。
『うん、頑張ろうね』
ママがクローゼットの扉を閉めたとき、私は、生きる未来を約束された。
パパとママから命と使命を託されて生きる未来。
私が大好きなママは、『るり、愛してるわ。パパとママの宝物よ、あなたは』抱きしめてくれた。その声が震えていたことに気がつきながら何もできなかった。
クローゼットの扉が閉じられ、私は隠れた。最後に見たママの顔は綺麗だった。いつの間にかパパが最後に私の頭を撫でてくれた。パパとママが笑いながら『生きて』と頬のキスをくれた。
それが私のパパとママとの最後の記憶。
そのあと、私はクローゼットの中にいても聞こえる狂った人の声と怒声。そして何かが壊される音だとか大きな破裂音を聞きたくなくて耳を塞いでた。
レインが少しだけねと音が聞こえにくくなるようにしてくれたあと、彼女を抱きしめていつのまにか眠りに落ちていた。
次に見たのは、一筋の光。開けられたクローゼットの扉から差し込む光りで目を覚ました。
目を覚まして最初に見たのは、目が真っ赤に染まった、優しい山崎のおじさんだった。おじさんは『生きててよかった』と私を抱きしめながら泣いていた。おじさんの背後に見えるパパとママの部屋は私の知るパパとママの部屋とは程遠い瓦礫の山になっていた。
わかってた。私がクローゼットの中で聞きたいと思った音が、パパとママの命を奪ったこと。
私が住んでいた家はもう人が住める場所ではなくなったこと。私を愛してくれた4人はもう誰もここにいないこと。
私は、この日、みんなを失った。
パパとママはどんなに泣いても叫んでも私を抱きしめてくれなかった。
おじさんの腕の中で泣き疲れて眠って次に起きたとき、「杯戸町で同時間帯に田崎財閥の関係者が幾人も殺害された」というニュースを耳にした。そのとき、私はこの世界が名探偵コナンの世界観だと気がついた。
あれは、私が8歳になる直前の冬の日。
パパとママが愛してくれた田崎瑠璃子という少女はその日を境にこの世界から姿を消した。虚像を残して。


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