Love is ...vol.13





今日はこれから終わりまでポアロのシフトがある。
この纏わりついたじっとりした匂いを早く消したいが、家に帰る時間はない。車を走らせ、ポアロへ向かった。
ポアロにつき、着替えるためにバックヤードへ向うと梓さんがいた。
「あっ、安室さん、こんにちは」
「梓さん、こんにちは。今お客さんは?」
「今は、コナンくんと楓さんがいますよ」
「いいんですか?」
「これだけ、冷蔵庫に入れておきたくて」
「楓さんのお土産ですか?」
「違うんです、それが」
「えっ?」
「鶴山のおばあちゃまから頂いて・・・」
「そうだったんですね。つい楓さんかと・・・。じゃあ店内はコナン君と楓さんの二人なんですねって・・・二人一緒ということですか?」
「コナン君が楓さん呼び出して待ち合わせしてたみたいですよ」
そういえば、コナン君が誘拐された日、彼女もまたあの事故現場に居合わせていた。銀行強盗犯に恋人を殺され、自らも殺人犯になった浦川芹奈に近づいた彼女は何か話をしていたと思い出す。
風見に調べさせた経歴はごく普通の一般の女性。裏社会との繋がりなどないであろう経歴の彼女がなぜか気になる。
「楓さんとコナン君は意外な組み合わせのような・・・」
「そうなんですよね。凄い不思議なことがあって・・・」
「不思議なことですか?」
「楓さんって今まで毛利さんや蘭さんやコナン君と重なる時間に来店したこと一度もないはずなんです・・・けど」
「けど?」
「すごい仲良しに見えるんです」
「コナン君と楓さんがですか?」
「安室さんも見てみればわかります。仲良しっていうのも変なんですけど・・・」
「じゃあ、早速みてみますね」
バックヤードから店内に戻るドアを開けると確かにコナン君と楓さんの姿が見えた。いつの間にか肩に乗っていたアンバーが彼女を目掛けて飛んでいく。
アンバーは、楓さんを気に入ってる。スピリットアニマルは僕の精神の現れ。僕自身が知らない何かを感取っているにしても、コナン君と話している彼女の唇の近くで飛んでいる。ともすれば彼女の唇がアンバーに触れそうなほどと見ていたら案の定、彼女の唇がアンバーの羽に触れたかと思えば、彼女の髪の毛に手を伸ばし自分から触れようとしてさえいるというか、触れていた。ふと自分のスピリットアニマルの行動に苛立だった。なぜ僕じゃなくアンバーが触れるんだと・・・僕に彼女に触れる権利はないのに・・・アンバーの行動に引き寄せられるようにして彼女の元へ向かった。
「コナン君、楓さん、こんにちは」
「あっ、安室さんだ、こんにちは」
「今日シフト入られてる日だったんですね・・・こんにちは」
「コナン君、この間は怪我とかしてないかい?・・・シフトに入ってたらダメでしょうか?」
前半はコナン君へ、後半は楓さんへ向けて・・・意地が悪いかなと思うが最近はこのくらいの会話なら彼女との間では成り立つようになっていた。
気が付くと彼女の言葉に傷つきかねない自分の心を最近ではもてあまし気味でもある。まだ出会ってわずかな素性もよくわからない楓という女の行動に一喜一憂してはならないと・・・そんな風に思うくらいには彼女の存在が気になっていた。
「そんなことないですよ・・・安室さんもコナン君救出の立役者なんですね。今聞いていたんです」
「僕は、毛利先生についてできることをしただけですよ」
「ご謙遜を・・・コナン君が安室さんのことすごいって言ったましたよ?」
「か、楓さん!」
慌てて楓さんの腕をつかむコナン君の行動がひどく癪に障る。彼女に触れるなと言いたい。その手をどけたい・・・そんな湧き上がる衝動を笑顔の中に押し込めた。

「なぁに?」
「僕、そうは言ってないよ?」
「うん、そうだね。でも意訳したら言ってたよね?」
「・・・そうだけど」
「おや?」
「どうかしました?」
「この間は、コナン君、楓お姉さんと呼んでいたかと」
彼女とコナン君は一体どんな関係なのだろう。出会って間もないという割に彼女とコナン君の距離感はひどく近い。
そう・・・それはまるで姉と弟かのように。そんなはずはないのはわかっている。毛利探偵の事務所に居候する少年・・・毛利蘭を姉のように慕っている、ひどく頭の切れる小学生が彼女にふれるたびにどこかでチリチリと何かが焼ける音がする。
「そ、それは・・・今ちょっと慌てちゃって。・・・ご・・・ごめんなさい」
「安室さんも怪我ありませんでした?」
なのに、ほんの少し向けられた好意に、すっと心に柔らかい風が吹いた気がした。荒れかけた天気が収まるように、その柔らか風が、心を穏やかに沈めていく。
「僕ですか?」
「車、わざとぶつけて止めたって、結構無茶されたみたいなので」
「ああ・・・ありがとうございます。どこも怪我はしていませんよ。僕、丈夫ですから」
「本当に・・・毛利探偵に蘭さんもですけど、皆さん怪我してないっていうけど、どんな身体してるんですか?」
「はい?」
「楓お姉さん?」
「いや、ただねよく怪我しないなぁ、みんなって思って、私なら死んでそうだもの・・・」
「普通、そうですよね」
「梓さんまで・・・」
「でも、丈夫だからと言って怪我をしないわけじゃないと思う・・・しにくいかもしれないですけど・・・だから、本当に怪我されてなくてよかったです」
何気ない言葉なんだと思う。楓さんは、僕以外にもこうした気遣いをする人なんだとわかっているのにその言葉を向けられることが嬉しい。以前よりも少しだけ彼女に受け入れられたような気がして・・・胸が暖かくもなる。
「ほんと、怪我しなくてよかったですね、安室さん」
「・・・・・ありがとうございます」
梓さんの言葉も彼女の言葉も僕を案じる言葉には違いはないのに、何かが違う。彼女の楓さんの言葉だけがなぜか胸を暖かくする。
コナン君の横で、コナン君も怪我なくてよかったねと、笑う姿に、ほら、やっぱりと思うと同時に少し暖かくなった部分が冷えた気がした。
「安室さん、コナン君助けてくれて本当にありがとございました」
「いえ、本当に、コナン君を助けたのは毛利先生で・・・僕はただいただけですから・・・」
安室透としての当たり前の答えを・・・安室透としてここにいるために計算してコナン君を助けたことが、なぜか重くのしかかる。
(そんな綺麗な笑顔で僕をみないでください)
彼女の目が見ていられなくて視線を思わず逸らした。


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