サラシバ


2話 その名は志摩廉造


 私が彼を見たのは、ほんの数日前の事だ。
 正十字学園高等部の入学式。
 学園のホールを埋め尽くすのは、同じ制服を着た、人、人、人。
 都内随一の名門校とはいえ、校風が自由だから、制服を着崩している人もいるし、金髪も茶髪もいる。留学生もちらほらいるし、真面目そうな人も、バカっぽい人もいる。
 言葉もまた然り。北は東北、北海道。南は九州、沖縄か。西は関西、もちろん馴染みある東京の言葉も。
 いろんな人が、ここまで沢山、しかもおそろいの服を着て、同じ方向に流されてホールに押し込められる様は、さながらレミングスの大行進。
 そんな中、ぽっと一カ所だけ、やたら目立ったのはピンクの頭。良く通る声で、聞こえてくるのは関西弁、京都だろうか。同じようなアクセントで話す友達と、仲良さそうに楽しげに、ピンクの頭はせわしなくキョロキョロと辺りを見回し、にこにこしているらしかった。
 そう、さすがにピンクは他になく。私が目を留めたのは、多分たったそれだけの理由で。
 入学式後のガイダンスで、同じく京ことばの男の子がクラスメイトにいる事を知った。こちらは頭、丸坊主。小柄で眼鏡で、人当たり良く。小柄だけども、声は良く通る。まぁしかし、共通点のあるとはいえ、さすがにあのピンク頭とつながりあるとは思いもせず。
 ガイダンス終わって、バラバラと席を立つ中、「子猫さん」と声する方見れば、まさかのピンク頭。
 なんだろう、あの瞬間の、心臓が止まるようなあの感じ。半端じゃなくビビったり、すこぶる驚いた様を「肝を潰す」というけれど、本当にまさしく、そうなる思いだった。同時に、秘密がバレてしまった時のようなそわそわ感。
 思わずパッと目をそらし、そらしたものの、そらした意味がよく分からず、誰に攻められたわけでもないのに、咎められているようで何だかヒリヒリした。
 胸が高鳴るというには熱が足らず、ただただギクリと感じたあれは、何だったのか。
 スイーツ横山なら、きっと迷わずこう言うのだろう。
「それは恋よ! 水沼さん!」
 目立つ頭はその後もたびたび視界に入り。そりゃそうだ、ご学友が私のクラスにいるのだもの。昼休みも放課後も。どうやら、坊主頭と、他にもう一人、黒髪に金髪トサカの強面くんと、ほとんど毎日三人して連れ立っているものらしかった。
 いや、それだけでなく。坊主頭が不在の時も、堂々クラスに侵入し、かわいい女子を捕まえては「メアドおしえて〜」と懐いていた。きかれた女子は、なるほどそうか、彼からすると一定基準を満たしたコなのだろう。
 当然、これをまた他のクラスでもやっているらしく。
 勝率の程は定かではないが、あんなに日々メアド収集に精進して、彼はそれをどうしているのだろうか。全員に定期的にメールを送っているのだろうか。ていうか把握できているのか。
 メルマガ業者か、おのれは。

 横山さんは言った。
「えぇっ?! なんでアレ?!」
 そう、彼こそは、我が学年が誇る希代の軟派男、志摩廉造。
「あんなのが……いや、ごめん。でも、かなり意外かも。ていうか、ホントごめん。どこがいいの……?」
 多分、顔です。あと頭。もしかすると声も。よく考えてみれば私、中学の時もあんな感じの人を好きになったことがある。さすがにアタマはピンクじゃなかったけれども。
 懐かしいと言うほど遠くもないが、何だかすっかり忘れていた。あの時は、今より少しはやる気もあって、何だかよかったなぁ。
「でも確かにあの三人組目立つよね。まぁ、同じ関西弁なら、私は他二人の方がいいと思うけど……あんなの彼氏にしたら苦労するよ、絶対」
 そうね、まったく、ご意見ごもっとも。でも私、彼氏彼女になりたいわけではないのです、多分。だから、いいのかもしれない。
 彼の日々とは全く無関係に、彼は私を充実させている。漫然とした私に、ちょっとだけ特別なひとかけら。キミはキミのままでいて、なんちゃって。
「そっか……志摩くんか。うん、わかったよ。私、応援するから!」
 これだからスイーツちゃんは。

 あ、そういえば私、ピンク頭にメアドきかれたことないや。

 いや、きかれたい訳じゃないんだけど。
 ………………………………………あぁ、ため息が出ちゃう。

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