サラシバ


だって、しかたない。


 クラスが違っても、お昼は一緒に食うし、もちろん下校だって。
 付き合ってちょうど一週間が経ったけど、毎日が楽しいってまさにこれだな。
 友達としてそばにいられることも、いつだって「よかった」って思ってたけど、こうして改めて、お互いの気持ちを分かった上で、話したり、笑ったり、そうするだけで特別な時間が増えていく気がした。
「何。何かいいことでもあったの」
「? なんで?」
「すごくニヤニヤしている」
「そうかな」
 そうかも。だって、しかたない。
 一緒にいるだけで、すごくどうでもいい一瞬にだって、「コイツは俺のことが好き」って思い出してしまうのだから。
 ああ、きっと、あの日に言われたことは、一生忘れない。
 隣で、カラになった弁当箱を丁寧に包んで仕舞う、その仕草を見ているだけでも、満ち足りていく。
 君が少し小さな声で、まだ早いかな、と呟いた。
「え、もう教室戻るの?」
 昼休みはまだ、と時計を見ると12時50分。予鈴まで10分以上あるのに。
「そうじゃないけど」
 チラッとこちらを見て、何だかやり辛そうに目を逸らす。
「なになに。言いたいことあんなら言えって」
 隠し事とか我慢とか、そんなことされたらたまらない。俺の心が死んでしまう。
 うん、と君は生返事みたいな声で言う。
「大丈夫だって。ほら、他に誰もいないし」
「めちゃくちゃ食いつくな……」
 そりゃね、そうですよ。
 だって俺は、君の全部が欲しいから。
 くれなきゃ死んじゃうよ?
 強欲なんです、こう見えて。
「大したことではないので」
「大したことではないのなら、言っちゃえよ」
「じゃあ、言うけど……」
 こっちを見て、それからまた目だけ逸らして、少し尖らせた可愛らしい唇が、

「キスしたいなって」

 なんて言うものだから。
「でもまだ付き合って一週間? だっけ? それに食べたばっかだし、なんとなくそんな風に思っただけだから」
 君は珍しくバタバタと言葉を続けて、どんどん顔が赤くなる。
 失言を悔やむように結んだ唇が、何だか別の生き物にさえ見えてしまった。
「だからスルーして」
「無理に決まってんじゃん!」
 思わず声がデカくなる。しかもちょっと食い気味。すげー恥ずかしい。
 え? だって、そうなの? いや、言いたいことも色々あるけど。食べた後だってこと気にするって、舌入れること前提なのかよ、とか、一応ステップ考えてたのかよ、とか、向こうもちゃんと「付き合って一週間」って分かってたのか、とか。いやだって、そういうの気にしなそうだったし。
 身体が無駄に火照る。
 どうしてくれるんだ。
「俺は、すげーうれしいよ」
 気持ちを落ち着けるために、言葉にする。
 何もつけていない裸の唇。
 蠱惑的な色。
 触れたらどんな感じだろう。
 急に少しだけ、意味もなく怖くなって、なんだよビビってんのかよ、男らしくない、そんな風に鼓舞して、思い切って言ってみる。
「だから、してもいい? キス」
「しても、というか、…うん」
 またチラッとだけこっちを見て。それから、ゆっくり目を閉じながら、顔を近付ける。
 気付いた時には唇が触れていて。
 何だかよく分からないものが、身体の中でガッと沸いた。
「すごい、電気が走ったみたい」
 君はそう言って、自分の唇を少し触る。

 キス、されてしまった。

 ようやく事実が頭に入ってくる。
「積極的ですね……」
「言い出しっぺはこっちなんだし」
 そういうもんなの?

「だって、しかたないじゃん。キスしたかったんだから」

 こっちを見ずに、そう言った。


(おしまい)

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