今宵も甘やかに(お題)
うちには猫が2匹いる。
どちらも黒い猫だ。
どちらも気が強く、気に入らないことがあれば牙をむき、爪を立てる。
2匹は兄弟だった。
黒い猫は2匹とも、待つということを知らない。
私のワークスペースだろうが、風呂場だろうが、私を必要とする時は、いつだって躊躇いなく踏み入ってくる。
腹が減った、ヒマだからちょっと構え。用件はだいたいこの2つのどちらかだ。
忙しいことに、私はその2匹を平等に愛していた。
けれど2匹は、平等に私を愛してはいなかったらしい。
兄は私よりも弟を愛した。
私はそんな兄を愛し、そんな兄に愛されている弟を愛した。
私の仕事はひどく特殊な部類だったから、深夜だろうが関係なく呼び出されることが多々あった。
2匹の猫は、どこへでもついてくる。
彼らは私の職場で働く猫だから、職場にもついてくる。
いや、本当は逆なのだ。
職場にいた猫が、私の家に居ついているのだ。だから、職場にいるのが本当で、本来だった。
職場にいる猫は仕事をする。
牙をむき、爪を立て。障害を斬り裂いていく。
猫のクセに、やたらと頼りになる職員なのだ。
働いて疲れると、2匹の猫はやたらと懐く。
私にへばりついて、何もさせてくれない。
着替えができない、と文句を言うと、じゃあ俺が脱がすよ、と本気で言う。
風呂にも入れない、と言えば、じゃあ一緒に、とついてくる。
風呂なんかあまり好きでもないくせに。
狭いのだから、というと、あからさまに不満げな顔をする。
仕方なく、1匹ずつ順番に風呂に入れて、自分のことはおざなりのまま、黒猫の髪を乾かす。
持ち帰る羽目になった仕事をやろうとパソコンの電源を入れたなら、そんなものは明日やれ、とパソコンとの間に身を挟んでくる。
やれやれ、寝かしつけてからにしよう、とベッドへ行けば、心地よい体温で寄り添ってくる。
愛しているよ、ふたりとも。
右手で兄を、左手で弟を撫でる。
兄は私の額にキスをして、弟は私の首元にキスをする。
いい子だね、ふたりとも。
今宵も、甘やかな夜が更ける。
(おしまい)
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