少し遡って白い魔女との決戦前。
アンジーはアスランのテントの近くにある大きな岩の上で林檎を齧っていた。そこへピーターがやってくる。
「ねぇ、それ、美味しい?」
ピーターの問いかけにアンジーは無視。それどころかピーターの方を見向きもしなかった。
「君は、天使なんだってね、アスランから聞いたよ」
アンジーは心の中で「だからなんだ」と思っていた。ピーターはそのまま続ける。
「僕、天使ってもっとこう…大きな翼とかを持ってるものかと」
「期待に添えなくてごめんなさいね」
小さく悪態をつくようにアンジーは答えた。ピーターはたったそれだけで心が踊るように嬉しかった。
それからピーターは毎日のようにアンジーに声をかけた。
「また林檎食べてるの?」
「寒くない?」
「ねぇ、川に遊びに行かない?」
「このぶどう、美味しいよ、食べる?」
アンジーはあれ以来一切返事をしなかったが、それでもピーターは諦めない。
そして、アスランが死んだという連絡が来た時のこと。
「本当だ、アスランは、死んだ」
「しかし、魔女の軍勢はすぐ近くまで来ています」
「じゃあピーターが指揮を執るしかないわね」
アンジーは相変わらず林檎を頬張りながら、ピーターに言った。ピーターはその言葉で自らが指揮を執ることを決めたが、しかし不安がないわけではない。
「僕は、みんなを守って戦えるだろうか…」
今日も今日とて岩の上で林檎を頬張るアンジーにピーターは話しかける。やはり返事はないかと思った時。
「私は、アスランをナルニアへ呼ぶことしかできないわ。でもあなたならみんなを守ることが出来る」
え、と思って岩の方を見上げると、アンジーと初めて目が合う。
「大丈夫。ピーターならできるよ」
「どうしてそう言いきれる?」
アンジーは全てをわかったような顔をしていたが、指を自分の唇に押し当て、「貴方には教えられない」と微笑んで言った。
今思えば、彼女はあながち、幽霊で間違いはなかったのだろう。