海の天気は変わりやすいっていうけど、海上の天気は変わりやすいなんてもんじゃなかった。




 私は見張りマストの縁に足を投げ出して腰かけていた。


 どす黒い雲がものすごい勢いで後退して、光が射し込む。

 あの暗雲はこれからどうなるのだろう。
私の街にも、嵐を起こすのだろうか。


「ねぇってばああああ!!!」
「!!?あ、」


 突然だった。油断してた。



だって誰もいないはずだったのだ。

 高いマストの上
足はぶらぶら下に投げ出して、なんたる無防備な格好。

下にビニールシートで覆われた荷物があったのは運が良かったけど、体に巻き付けた毛布のおかげでまともにダイブしたのはかなりカッコ悪かった。


 ドサドサと崩れる荷物。舞い上がる埃のせいで、咳が止まらない。

 私は傍観する男の子を睨む。



「ゲホッ、いったァ……ちょっとなんてことすんの!?」
「え、」
「痛いじゃない!?」
「えっと呼んだだけなんだけど…ごめん。」
「な、呼ん、」


 た、確かに。
調子狂うな。侮れないヤツだわ。


「大丈夫?」
「びっくりしたよ!」
「ねぇ、なんであんなとこにいたの?キミ、あ、名前は?オレはゴン。船室にはいなかったよね?ずっと外にいたの?この嵐の中?」
「う、うん。」
「どうやって!?」
「どうやって、って?」
「どうして吹き飛ばされなかったの?」
「あそこ、縄あるでしょ。あれで体引っ掛けて、それから…」
「なんでそこまでして?」
「…だってオッサン達のゲロぶっかけられたらヤダもン。」
「……。」


 な、なるほど、といった面持ち。なんか気弱そう?
違うな、素直そうな人だ。


「私、#アクア#。」
「#アクア#?」
「うん。」
「いい名前だね!」
「…そっかなァ?」
「うん。」


 褒められた?なんか恥ずかしい。ゴンか。うーん。


 落ち着かない手で頭をかいて、気づいた。さっきまで髪を隠していた帽子が無い。


「あ、あれ?私、帽子かぶってなかった?」
「ううん。…あ、もしかして、あれ?」


 彼が指さす先は船の先、帽子は船首部のマストの一番上に引っ掛かっていた。

 ドタドタと二人で甲板に出る。


「ちょっと毛布持ってて。取ってくる。」
「オレがやるよ!」
「え、ちょっと、」


 私が否定も肯定もしないうちにゴンは持っていた釣竿を振り上げて、カッコ良く帽子を引っ掛けてくれてしまった。


「はい!」
「あ、ありがとう…。」
「もったいないよ、帽子。」
「え?」
「だって折角キレイな髪なのに。」
「どこが!?癖っ毛だし、色だって…」
「キレイじゃん!オレ、青い髪なんて初めて見たよ。」

「…ありがとう、ゴン。」
「#アクア#は何歳?」
「来月12歳。」
「オレも!もうすぐ12!」
「何月?」
「5月。」
「5月ってけっこう先じゃない?」
「そうかなァ?すぐだよ、5ヶ月なんて!」
「4ヶ月だよ。」
「あ、間違えた。」
「ぷ…あはははっ!」



 ゴンは、そんなに笑うなんてヒドいなぁ、って顔で私を見ていて、その分かりやすすぎる表情がまた私の笑いを誘った。

なんでそんなことが笑えるほどおかしかったのかよくわかんないけど、箍が外れるってこういうことなんだろう。



 それから2人でいろんな話をした。
ハンター試験のこと、住んでいる国のこと、家族のこと。

余計なことまでベラベラ喋ってしまったけど、ゴンが気にしてなかったから別に気にならなかった。

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