魔法使いの青少年 1
© 2019 sasori_bi 大講堂の中に集められた学生たちは、雛壇の上に立つ教師の言葉に耳を傾けていた。
内容は取り立てて珍しいものではない。規範遵守の注意喚起と、その時期その時期にある行事に対する心構えの二点だ。どうしても気が緩みがちになる生徒の手綱を締めるための集会だった。
整列した同じ制服に身を包む生徒たちは、粛々と進められる集会を沈黙でやり過ごす。いつもと言われる内容は同じだ。中等学校に属する生徒として、規律や規範を守ること。この年頃には起こりがちな、軽率な行動を慎むこと。特に、魔法の扱いに対する注意に長い時間と言葉を割かれた。それらを総じて耳半分でやり過ごす。
教師の話がやっと終わった頃、ここに来て初めて、整列の中に加わらず壁際で立って待っていた生徒が呼び立てられた。
「ユージオ・シアン。前へ」
名前を呼ばれ、ユージオは制服のケープを翻し動いた。夜空の色の髪が尾のように揺れる。
生徒たちがその姿を遠巻きに見守る。微かにざわめき、何事と囁き合いながら、呼び立てられた一人の生徒を注視する。顔色を変えずにそれらの視線を受け止めながら壇上に上がると、ユージオは従順にその場に膝を突いた。
前に立つ教師の手には、蝋のついた書状と、リボンのついた記章、略綬がある。
「『ユージオ・シアン。初級錬金術師試験の合格と、初級《錬金術師》の称号をここに認めます。今後のたゆまぬ向上を願って』」
書状の内容を読み上げて、それをユージオの手に渡す。途端、大講堂の中は小さなざわめきが広がった。彼はそれらに呑まれないよう、静かな声を凛と張り上げて答える。
「謹んで拝領いたします」
これだけ人がいる中でも、その声はやけに明瞭に響く。ユージオが立ち上がると、教師の手ずからその制服に記章が取り付けられた。四元素を表した菱形の小さなシンボルが音を立てた。
「あなたであれば最年少も狙えたのでは」
「……競うものではありません」
「その通りですね。素晴らしい功績です」
そんな小さな会話が壇上で起きていたことを、周囲の生徒たちは知らない。教師が書状を読み上げた後、遠巻きに眺めながら誰かが小さく疑問の声を上げていた。
「錬金術師って何だ?」
「魔術の国家試験だよ。魔法理論の膨大な基礎知識の筆記と、複数混合の魔術の実技で試験があって……王城で官僚になろうって人なんかは、なるべく取るようにしているらしいけど。大人でも、初級すら合格率が一割切るって」
「うわ……」
その難度を知る生徒や、試験の内容はともかく《錬金術師》の称号については知っている生徒たちから、感嘆の声がそこかしこから上がった。
「すごいな。さすが学年主席」
「学年主席っていうか、《錬金術師》称持ってるの、中等学校じゃ他にいないし。学校主席ぐらい名乗れるんじゃ」
「確か、まだ一年だろ? それですでに錬金術師って、一体どういう頭して……」
続いて、教師の口からはまた別な少女の名が呼ばれる。
「フローレイン・アステリア。前へ」
「はい」
今度は少女の明朗な声が響いた。
檀上に上ってゆく、金の髪が輝く横顔に、ときおり溜め息が漏れ聞こえてくる。その短い間だけは、講堂内のざわめきが静まった。
フローレインはユージオの隣に並ぶと、制服の裾も気にせず床に膝を突く。教師は曖昧に笑って咎めたてることはせず、改めて運ばれてきた書状と記章を手に持った。
「入学式でのあなたの魔法に敬意を表し、魔法協会を通して、スヴァローグ王家より栄誉勲章が下賜されました。ここに勲八位星華章を授与します」
再び、ざわめきが講堂内に起こる。当のフローレインは身を固くして、同じく固い表情を伏せていたが、再び教師に名前を呼ばれるとぎこちなく立ち上がった。
「おめでとう。我が校設立以来、類を見ない誉れです」
「……こ、光栄で、ゴザイま、す」
「?」
何故か冴えない顔色で答えるフローレインに、教師は怪訝な顔をしながらもその制服に記章を付けた。五角形の台に、花か星のような模様の記章だ。リボンに提げられ重々しく揺れる。
ユージオとフローレインは並んで、整列する生徒の方を向いた。
「我が校の生徒の活躍を称え、一同拍手を」
ユージオとフローレインが優雅に一礼する。ユージオは自分の胸元に手を当てて上体を軽く倒し、フローレインはスカートの裾を摘んで膝を軽く曲げる。それぞれの礼を見て教師は満足げに頷いた。
講堂の中では、生徒が拍手をしながら感嘆の言葉を零している。
「さすが『白鴉の魔法使い』だな」
「まー確かに」
反論の声は上がらなかった。どころか、その時の光景を思い出したかのように、改めて賛辞が零される。拳を握り締めて、やや高揚したような同意の声が続いた。
「入学式のあれは凄かった!」
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