声をかけてからも伊作君は何故か固まったようにその視線をそらさなかった。
もしかしてうっかり頭をうったんでしょうか?
そうだとして、打ち所でも悪かったんでしようかねえ…幽霊と思わしき私と見つめあったところで何にもならないのに可哀想なことです。
「……実継?」
「いかにも私は建穂実継だけど?」
答えれば伊作君はゆっくりとこちらへ手を伸ばしてきた。
怖いもの見たさで触ってみようとしているんでしょうか?
本当なら目で見てわかってほしいんですがねえ。
それに一応怪我人ですから動かないでほしいので、こちらからも手を伸ばし先にその手を握った。
ほらちゃんと生きてますよー幽霊なんかじゃないですよ?
別に六年生までもが私を亡き者と扱ったわけではないかもしれせんが、学園中の噂になるまでには忘れられてたのはちょっとだけ…ちょっとだけ悲しかったんですよ。
だからぎちぎちと音がしそうなくらい握ったって文句はありませんよね?
「痛たたたたたたっ実継!?」
「ん?どうした?」
「ど、どうしたじゃなくて手っ!!」
「あーごめんね伊作君。それよりじっとしてて、頭を怪我しているかもしれない」
慌てふためく伊作君を見て少しだけ申し訳なく思いました。
少しだけですよ少しだけ。
恨み半分、ってところです。
気分は悪くないかとか少々聞いてみましたが特に問題はなさそうですね。
流石は医学に通じているだけあって自分の状況もある程度は冷静に判断できているみたいです。
なるべく頭を動かさないようにしながら周囲の様子を目で確かめています。
それでも新野先生に診ていただいた方がいいでしょうし、私がやれることなんてありません。
そんな私の後ろで、目を覚ました伊作君に下級生の二人は明らかに安心したような溜息をついた。
よかったですねーやはり大事ないようで。
おっと、そろそろ三反田君を中に入れてあげなければ。
伊作君の手を解いて立ち上がり部屋の外へ。
下級生に囲まれる伊作君を尻目にちょっと放っておいてしまった三反田君の様子をうかがってみます。
壁に寄り掛かるように座らせていた彼はまだ眠っていたようで、背負うのも大変なので再び抱え上げ保健室の中に。
「あー!三反田先輩!?」
「え、数馬!?どうしたの?」
反応を見たところやはりここの委員のようですね。
後で治療してあげてほしい旨を伝えてからそのまま部屋の奥へと連れて行く。
そういえば、ここにも誰か寝ていたはずですが…?
そろりと衝立の奥を覗き込むと、そこに横になっていたのは紺藍。
「起きているだろう?悪いけど少しの間、彼も横に座らせてくれるかな?」
「………」
眠っていないとは思っていましたがまたしても無反応とは警戒心剥き出し、という感じですねえ。
ここまでくるともうかまいませんけれども。
私だって学習能力がありますから逐一反応なんてしていられませんよ。
「私に害があると判断するのはかまわないけれど、彼は君の後輩だから害は無いし問題も無いね」
もう疑問ではなく確定的に。
目の前の彼の警戒が私にだけ向けられているのは明らかですからね。
概ね、怪我をしているところに見知らぬ人間が入り込んで気がたっているのでしょう。
誰しもよくあることです。
私も気がたってしまいますよ?その分しっかり発散だってしますけれど。
何も口に出さない彼にかまわず三反田君を布団の端の方へ座らせた。
廊下に座っているよりは幾分ましでしょう。
長々板張りに座らせてしまってちょっと申し訳なかったので。
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