「新野先生、いらっしゃいますか?怪我人を連れてきました」


障子越しに聞こえた声に、瞠目した。


それはもう、二度と聞くことはできないと信じかけていた彼の声だったから。
忘れるわけもない、優しそうでいて冷えた声。

動揺した僕は身体ごと薬棚にぶつかった。
そしてその反動で倒れこんでくる棚を目の前にして、動くこともできなかった。


君は、帰ってきたの?












建穂実継は同じ組の静かだな、という印象の子だった。

初めて会った時から彼は大人しくて、控えめという言葉が良く似合っていた。
だからといって鈍くさいなんてことなくて、実技も座学も優秀な方だった。
僕と実継が話す機会はあまりなかったけど、彼は組のみんなと均等に仲が良かった。

だけど彼は、時々その姿を消す。

最初は誰も気にかけない程度だった。
でも二年三年と学年を上がるにつれ彼の姿を見る日が少なくなっていった。

誰かが聞いた話によると、彼は学園長先生のお使いに行っているらしい。

お使いはこんな頻度で行くものだっただろうか?
そんな疑問を感じはじめた四年に上がる頃、彼に変化が起きた。

「久しぶりだね、伊作君」


出会った時から敬語のままだった彼が、突然砕けた口調で話しかけるようになった。
それば僕だけに限ったことではなく、組の誰に対してもそうだった。
皆は打ち解けるのが遅すぎるだなんて言っていたけど、僕はそう思えなかった。

実継が一方的に線を引いたんだと、そう感じられたから。

更に声変わりの影響なのか、実継の声は少し低く冷えた調子に聞こえて仕方がない。
それが余計に僕らとの間を開けているようにしか思えなかった。



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