彼の纏う雰囲気も変わっていた。
控えめで大人しいのではなく、自分を気取らせないように静かでいて強かさを感じるようになった。
でもの強かさが表立つことはなくて、普段は空気のように穏やかな存在のままだった。


僕らは学園の中で同じ時間を学び、それぞれの個性を伸ばしている。
もちろんその過程のすべてを見ることはできないけれど、なんとなく似たような速さで成長していると思っていた。

けど、実継は違う。

彼は僕らとは違う、どこか別の場所で着実にその力を伸ばしている。
その過程なんて微塵も感じさせない何処かで。

僕がそう感じたのは四年生になってから。
でもそれが具体的に何であるのかは、この頃曖昧にしかわかっていなかった。

そんな感覚を上手く掴めないうちに、彼はまた学園から姿を消す。

けれど実継は僕らと一緒に進級してきた。
試験の時には必ず学園に戻ってきて、一緒に試験を受けていたから。


五年への進級試験の時、僕は実継と組むことになった。
試験内容は隣国での戦の戦況分析と報告。
そんなに難しい内容じゃないとわかっていたけど、僕は緊張していた。

きっとこの緊張は、試験を前にしたからじゃない。


「伊作君、緊張してる?」
「え、ああ…ちょっとね」

本当はちょっとなんかじゃない。
今にも手足が震えてきたっておかしくはないくらいに、緊張している。
これまでだってひとつも安心して受けられた試験なんてなかったけど、今回はまた違う。

実継と一緒だから。

彼の実力は誰しもが認めるものだし、不安がるなんて可笑しいと言われてもしょうがない。
でも僕は、実継が掴めない。
学園から消える度に強く、そしてわからなくなる実継が少し怖かったのかもしれない。
「私も伊作君の足をひっぱらないように頑張るから、心配しないで」
「違うよ、実継のことが心配なんじゃなくて、僕が…」

君のことが分からなくて怖いだなんて、口に出せるわけがない。
言い淀む僕に実継は何も言わない。
ただ僕が話始めるのを待っているようだった。

でも僕がそれを言葉にすることはないまま試験は開始された。





偵察だけだったはずの任務は僕の失態を機に一変した。
木の上から戦況を伺っている最中に僕が持っていた包帯を落としてしまった。
それがまた不運なことに忍者に直撃…。
そのまま隣国の忍二人に追われることになってしまった。

まさかこんなことになるなんて思いもしなかった。
いや、僕の不運が発揮されるんじゃないかとは思ったけど…。
このまま逃げ切れるだろうか?試験には合格できるんだろうか?

―生きて、帰れるのだろうか?

真っ黒な不安が胸中を巡り、息苦しくなる。
その時不意に目があった実継は驚いたような顔をしたかと思うと、穏やかに笑った。

…どうして、笑えるの?

「ここは二手に別れよう。私が彼らの相手をするから伊作君は報告を上げに行ってくれ」
「っそんなことできないよ!敵はプロの忍者だ、君一人でどうにかできるわけがない!」

とんできた矢羽音に驚愕した。
彼の実力が僕よりあることはわかっているけど、僕らはまだ忍たまだ。
プロの忍者二人を相手に勝てる見込みなんて無いのに…!

「なんとか撒いてみるよ。それより報告を上げないと進級出来ないだろう?」
「でも!」

「伊作君、これは任務だ」

並んで走る彼が呟くように言った言葉が頭に染み込むように響いて、戦慄した。
そして彼から俄かに漂う殺気を感じ、思わず足が止まってしまった。

「武運を、伊作君」
「っ実継!」

その一瞬をついて実継は追手の二人に向かって行ってしまった。
こうなってしまった以上、急いで報告をして先生方に助けを求める他無い。
今の僕一人の力じゃどうにもできやしないから…。

遠のいていく景色の向こうから断続的に金属がぶつかる音が木霊してきた。
実継っ…撒くんじゃなかったの!?

「…っ駄目だよ実継!」


実継は僕らの大切な仲間だ…死なせたくなんかない!




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