実継が消えてからすぐ、僕は彼のお使いがただのお使いではないと知った。
お使いではなく、"御使い"。
それは学園長先生からの忍務を担っていたのだと。

その内容はもちろん忍務と言うだけあってピンからキリまで様々。
ただそのどれもが実戦的な内容ということだけが事実。


その実継が、もう何か月も帰ってこない。


次第に僕らは実継について何も話さなくなった。
いなくなったことを信じたくなかったのかもしれない。
学園長先生は誰が聞いてもその行方や忍務について教えてくれなかった。
ただ一言「大丈夫」だとしか言ってはくれない。

だからこそ不安になりながらもどこかで実継は帰ってくるんだと信じていたんだ。


「久しぶり伊作君。痛いところはないかな?」

目を覚ました僕に飛び込んできた、実継の笑顔。
俄に信じられなくて手を伸ばせば掴まれ、力強く握り返された。

生きてるんだ、実継はここに今いて、生きてる。

視界から消える実継の姿を視線で追いながら、僕は心底安堵した。
傍にいた伏木蔵や左近に聞くと、倒れた棚を戻して僕を助けてくれたのは実継だという。
また僕は実継に助けられたんだね…そりゃ前と違いはあるけど、助けられたことに変わりはない。
それに何処かで怪我をしてきたらしい数馬も連れてきてくれた。
本当に君は…その優しさは変わっていないんだね。

「大事ないようで良かったね伊作君」

ね、やっぱり。
見た目はまた少し大人っぽくなったかな…僕らと同い年にしては少しね。

それにしても伏木蔵が言ってるお化け長屋って…僕は聞いたことがなかったな。
もし知ってたら部屋を覗きに行ったりとかしたのに…!
なんて思っていると実継が薬草棚の片付けを手伝うと申し出てくれた。

「でも実継は帰ってきたばかりだろう?手伝ってもらうなんてわるいよ」
「そんなことない。私だって忍たまの端くれ、体力気力共に問題ないさ」

実継に問題がなくても僕らの方に問題があるというか…不運に巻き込んじゃうと申し訳ないしね?
どう言ったらいいかな…なんて思っているとまた実継から聞き馴染みのない委員会の名前が。
支援委員会…?

聞けば学園長先生の突然の思い込みで出来た委員会みたい…実継、ご愁傷様。
ともかくその委員会の仕事でもあるということで薬棚の片付けを手伝ってもらった。
てきぱき動く実継はたまに転びそうな後輩たちを手助けしてくれる。
薬草の見分けは僕に訪ねてくれるけど、それ以外は本当に要領がいい。
思えばこんな実継の姿を見るのは初めてかもしれない…。

そして薬棚がほとんど片付いた頃に新野先生が戻ってきた。
先生は実継を見て驚いてたみたいだけど、いつものように微笑んで「おかえり」と声をかけていた。

それを聞いた実継が手にしていた薬草を落とした。

見てみれば頬をわずかに赤く染め、少しだけ潤んだ瞳をした実継がいた。


「っ実継!」
「ん、どうした伊作君?」

「おかえり実継っ!!」


気づけば僕は力いっぱい実継にお帰りと叫んでいた。
そうだよね、実継は帰ってきたんだから。
おかえりって迎えてあげなきゃいけなかったよね。
普段誰にでも言っていることだから、実継にだって言ってあげないと。

「……ただいま」

実継が、ふんわりと笑った。
今までに見たこともないような暖かい笑顔。
これって……作り笑いとかじゃない、本当に本当に実継の笑顔…?

っ!?

なんだか急に幼く見えた実継を可愛いと思うのは、きっと僕だけじゃないはず…留三郎ちょっとこれ見て…!!



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