外はすっかり夜の帳。
今日は月が明るいですし相手が見えなくなるなんてこともありません。
留三郎君は鉄双節棍を抱えたまま機を伺っている様子。
もちん私もですよ?
相手との間合いを読むことだって忍には必要とされますから。
ですが。
私、早く終わらせたいんです本当に。
だったらこちらから動く他ありませんよね?
こう見えても動きの早さには定評があるんですよ私。
きっとこれだけは、負けないと思うんですよねえ。
目線をきつく留三郎君と合わせたまま、静かに息を吸い――止める。
地を素早く力いっぱい蹴り一瞬にして間合いを詰める。
そして鯉口を切り、僅かに鞘から覗く刃を下から留三郎君の首へとあてがってた。
これが最速ですね…今になって汗が噴き出してきましたよ…。
太刀は太刀でも大太刀を扱っているので早さが無いと思われがちなんですがね?
そこを逆手にとってこそ忍らしいじゃありませんか!
「…どうでしょうか?」
「……ま、参った」
「はい、終わりだね」
愛刀を鞘へと戻せば、留三郎君は地に膝をついた。
頑張りましたよ私!
…一瞬素が出てしまいましたけどまあ良しですよね?
やはり学園で普通に学ぶ彼らに勝つには気合いを入れないと駄目ですね。
…まあ今回は少し気が立っていたのも手伝ったと思いますけれど。
「少し切ってしまったから、後で手当てを受けてくれ。ではこれで」
首の怪我なんてよくありませんからねえ…つけた私が言えた義理もないですが。
とりあえずの措置で使ってもらえればと、懐に入れておいた手ぬぐいも渡しておきます。
もちろん綺麗なものですから大丈夫ですよ?
それにしても、そろそろ刃を研いであげないといけませんねえ。
長い分時間がかかりますけど、研ぎ師の方にお願いするには時間もお金もありませんし。
次に研ぎに出せる時までの繋ぎとして研いでおきましょうか。
すでに足は部屋へと向いていたから気付きませんでしたけど、留三郎君の周りに上級生が数人集まっているようでした。
…ようでしたというのも、部屋の前にいた一年は組のよい子たちが急に現れた上級生に驚いているのを見て気付いたんです。
「さあもう夜も更けてきた。寝る時間だろう?早く部屋に戻ったほうがいい」
気配に気づかない情けなさを誤魔化すように声をかけると、今度は彼らの顔が強張っていることに気付いた。
…私、怖かったんでしょうか?
殺気立ったりはしてないと思ったんですが…いやはや冷静さを欠いてはいけませんね。
「お前たち!こんな時間に何をしてるんだ!」
庭先に降り立ったのは黒い影。
あ、随分と久しぶりにお会いしますね…土井先生。
「っこれは!」
「留三郎君とつい勝負に興じてしまいまして。夜分に騒ぎたてて申し訳ありませんでした」
こういう時は何か言われるよりか先に謝ってしまった方が早いんですよ。
私が声をかけると先生がこちらに振り返り目を見開いた。
「お前…六年の建穂実継!」
「御久し振りです土井先生。お元気そうでなによりです」
若干お疲れな様子も見えますけどきっと熱心に授業されているからですよね?
土井先生の授業はわかりやすくて私もまた受けたいと思っているんです。
…そういえば座学の方、少し不安な所がありましたっけ。
「あ、ああ…じゃなくて!こんな時間にわざわざ勝負なんてする必要はないだろう!?」
「ご尤もです。以後気を付けますので、今夜はこのあたりで勘弁していただけませんか?まだ帰ってきてから休む間も無いんです」
先生相手にこんな言い訳は卑怯ですが…本当にここ数刻の間に色々ありすぎて整理する時間がほしいんです。
この心情を察していただけたのか、土井先生はため息をつきつつもこの場を収めてくださった。
また改めて土井先生にはお礼に伺いましょう…いつもご迷惑おかけします。
さてこれで、ゆっくり休めそうですねえ。
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