あいつが俺のことをよく覚えてないのは無理もないことかもしれない。
ただ俺は、あいつをずっと見ているだけだったから。
あいつの存在を不思議に思ったのは三年の時だ。
時々いなくなることは知っていたが、何をしているかを知らなかった頃。
授業を終えた後の時間で、たしか実技の鍛練をしている時だったか。
自分で決めた練習を終えて長屋へ戻ろうとしたら、不意に視界の中で自分と同じ制服を纏った誰かが木にもたれ掛かって座っているところを捉えた。
こんなところで転た寝なんて…と思っていたが、しっかりと目視してみてその異常に気が付いた。
「っどうした!!」
慌てて駆け寄ってみて改めてそれが同じ組の神出鬼没で名の通っている建穂実継であり、こいつが正常ではないことに驚いた。
汗でびっしょりと濡れて変色している頭巾や上衣、荒い呼吸に熱い体温。
大きな外傷は無いがよく見れば所々擦れた制服。
そして時おりもれる苦痛を耐えるような喘ぎ。
まさか……毒か!?
まずは保健室に連れてくしかない!
三年生の俺にはまだ解毒の知識なんてなかった。
同室の伊作だったら何かわかったのかもしれないが、そんなこと考えたところでどうにもならない。
ただ呼吸が苦しそうだったので頭巾だけは外してやった。
それから抱えあげた実継は見た目よりも少し重いと感じた。
少し小柄に思っていたんだけどな…多分鍛えていた分だけ重かったんだろう。
幸いなことに其処から保健室は近かった。
駆け込むとそこには校医の新野先生がいたので、とりあえず実継を布団に降ろしながらこいつが倒れていてもしかしたら毒じゃないかと話した。
新野先生は手早く実継の様子を診るとあたりをつけたらしく、薬棚からいくつかの薬草を掴み煎じ始めた。
部屋に保健委員が不在だったので俺も先生の指示で実継の首もとを寛げたり、濡らした手拭いを額に載せてやるなど忙しなく動いていた。
やはり実継は毒に中てられていた。
幸いにも複雑な毒ではなかったらしく、新野先生が調合してくれた薬を飲んでからはある程度様子は落ち着いた。
しかし俺の疑問は収まらない。
「先生、こいつは…どうして毒なんかに中ったんでしょうか?」
「それは…私からは言えません」
さらに聞こうと身を乗り出す俺に新野先生は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
先生でも答えてくれない…となると、考えられるのはひとつ。
これは、忍務に関わっているということだ。
俺たち三年生はまだ下級生でしかない。
与えられる忍務なんて限られているし、お使い程度でしかないことがほとんどだ。
ましてや毒に中るような忍務なんて三年生に任されるわけがない。
目の前で眠るこいつは一体何をしてるんだ?
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