「―…戻ったか」
「…此処に」
今度は天井裏ではなく縁側へとひっそりと降りてみると、学園長先生から声をかけられた。
流石学園長先生、私の気配の消し方もまだまですね。
あらかたの仔細を報告すれば、学園長先生も「御苦労」と労ってくださった。
ちなみに賊は話を聞いてから再び気を失わせ、少し記憶が混濁する程度の睡眠薬を嗅がせておきましたから放置しても大丈夫でしょう。
並みの人間であれば私に会うより以前の記憶はおろか、1週間くらいの記憶は吹っ飛んでるはずですので。
記憶が混乱する中で自分が傷だらけなら、誰しも錯乱するでしょう?
そうすればもう悪事を働こうだなんて思うわけありませんよね!
まあそんなことはさておき。
学園長先生にはもう一つお伝えしなければいけないことが。
「学園長先生、もう一つご報告が」
「ん、なんじゃ?」
「一年は組と遭遇しました」
―…今、学園長先生の眉がぴくぴくっと動きましたよね。
み、見間違いではないですよね…?
「ほう…一年は組とな?」
「はい。その場ですぐに学園へと戻りましたので、特に何かあったわけではありませんが」
「おお、そういえば一年は組にもお使いを頼んでおったのじゃった」
ちょうどお主の御使い先の近くじゃったのーなんて暢気に仰っていますが何か不穏な気配を感じますよ学園長先生……。
「共に大事無いようでなにより。しかし実継よ、よく一年は組と分かったのう?」
「え、ええ…少々聞き及んでおりましたので」
学園長先生が珍しく思うのも無理はないでしょう。
なんせ私は学園にいる日数の方が少ない生徒ですから。
というのも。
私は所謂天涯孤独の身なのです。
忍術学園に入学出来たのも偶然の偶然でした。
勿論学費のあてなどありませんから、己で稼いで支払う他に道はありませんよね。
そこで学園長先生が示してくれたのが御使いでした。
御使いを頑張れば多少の学費のあてにしようと仰ってくださったのです。
勿論低学年の内から常に御使いをしていたわけではありませんから、最初は大変でした。
しかし御使いもまた忍の修行と思えば何ら苦ではありませんでしたね。
学年が上がるにつれ御使いの回数や頻度も上がり、同時に私は学園で得た基礎の応用を身につけられるようになりました。
…それと、暇あれば御使いへと駆り出されるようにもなりましたよ、ありがたいことに。
おかげで試験の前日だろうとお構いなしになりましけどね…!
ちなみに試験の成績は実技も座学も中ぐらいです。
いくら御使いが修行を兼ねているといっても、しっかり学園で習っている同級生達には敵いませんよ。
六年となると授業の数も少なくなりますから更に御使い行き放題ですよね!
そのせいか学園にいるのも随分と久しぶりな感じがしますね…部屋に足がつけばすぐに学園長先生にお呼ばれしていましたから。
まあそんな状況ですので、入ったばかりの一年生のことを私が知っているだなんて夢にも思わないのでしょうねえ。
「時に実継よ。主の学費についてじゃが、全額納入したようじゃな」
「…はい。これも学園長先生が御使いに行かせてくださったが故、本当にありがとうございました」
急に話が飛んで少々動揺してしまった…学園長先生心臓に悪いですよ、私の。
そうなんです、私無事に学費を六年分納めたんですよ!
御使いと同様に転々としながらアルバイトで稼いだ甲斐がありました……思い返せば視界が霞むようなことも多々ありました…頑張りましたね私…。
御使いでの免除がなければ後半年はかかってましたかねー高いんですよ忍術学園の学費。
これで卒業までのんびりと学ぶことができそうですよねー……と先程まで思っていた私が羨ましい。
見てくださいよ学園長先生の表情!
思いっきりにやけてるじゃないですか…!
なんだか寒気までしてきましたよ……
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