俺は実継の返事も待たず腕を引いてあいつの部屋へと連れていった。
部屋へ着くと実継はなにも言わず淡々と大太刀を手にした。
あれは紛れもなく実継の愛刀だ。
黒漆に赤い緒の施された鞘と少し細身でいて鋭い鋒の太刀。
人が扱うには長すぎるそれをあいつは意図も簡単に扱ってみせる。
下げ緒で腰に佩いているにも関わらず鞘は煩わしい音もしなければあいつの動きを遮りもしない。
四年の実習の時に間近で見たが実継の剣は並みではないと思った。
人を仕留めるには大きすぎるそれを、あいつは涼やかな顔で振りかざすのだ。

ちなみに大太刀とは一般的に九尺以上の長さの太刀のことをいう。
馬上で使われることが殆どだが、最近は徒戦も多くなった為に短く打ち直されているらしい。
あいつがどうして大太刀を持っているか、理由は知らないんだがな…。

実継の部屋の前で距離を取り対峙する。
食堂であの一年は組が騒いだからか周りには上級生が集まってきていた。
見世物じゃないんだぞこれはっ!!

矢羽音でとやかく聞いてくる奴がいるが今は無視だ。
俺はこいつが本物であることを確かめないとならない。
黙ってろ特に文次郎!!

明るい月夜でくっきりと見える実継は無表情で俺と目を合わせているだけだった。
鉄双節棍を抱える俺に対して、あいつは柄に手を置くことすらしていない。
しかし隙がある訳じゃないのはたしかだ…あいつの視線は鋭い。

一瞬でも気を抜いたら…負けるのだろう。
まるで戦場に行った時のような緊張感に鉄双節棍を持つ手に力が入る。

しかし瞬きをしたその瞬間、視界から実継の姿が消えた。

代わりに首もとにあてがわれた刃の冷たさ。


「…どうでしょうか?」


俺に敗けを促すこの声は…あの時と同じだ。
あの日によく似た冷めきっているあの声。

「……ま、参った」


こいつは間違いなく建穂実継だ。


へたりこむ様にして膝を着いた俺に、実継は真っ白な手拭いを渡した。
刃で少し切られたらしい…手で触れてみれば確かに血が出ていた。
しかしそんなこと、どうでもいい。
本当にあいつは建穂実継で、この学園に帰ってきたんだ。

俺がずっと見てきた、あいつが。

「見事にやられたな、留三郎」
「それよりあいつは本当に実継なのか?」
「……あの太刀は、実継の物だった…」
「はっ!不様だな食満留三郎っ」

周りに現れた他の六年がとやかく話すが今はどうでもいい。
あいつが戻ってきたという実感が今の俺の全てだ!

一年生の元に戻るあいつの穏やかな顔つきは、きっと今まで下級生に関わってこなかったから見ることもなかったんだろう。
だがそれも昨日までの話だ。
今日からは、明日からはきっともっと見ることができる。
考えてみれば見ているだけでいる必要なんてない。

俺達は同じ学年で、しかも同じ組の仲間だ。

躊躇いなんて最早不要、俺があいつを穏やかな顔つきにしてやればいい。

良き、友として。


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